タイガーウッズの腰痛に学ぶ、腰痛にまつわる4つの誤解

監修者青山朋樹 / 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 教授(医師、Ph.D)

ライター田中献人 / 理学療法士

(c) David Mark - Pixabay

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【記事のポイント】
腰痛にまつわる4つの誤解
誤解1.画像検査をすることで必ず腰痛の原因が明らかになる。
誤解2.ヘルニアになったら手術をしない限り痛みはよくならない。
誤解3.腰痛を治すには骨盤の中心にある仙骨のズレを治さなければならない。
誤解4.体幹の筋肉を鍛えなければ腰痛は改善しない。

ゴルフ界のスターであるタイガーウッズ選手、彼が腰痛を抱えたことは、世界的に大きな話題となり、メディアを通じて腰痛に注目が集まりました。

タイガーウッズ選手の発言や各メディアからの発信により、さまざまな腰痛に関する情報が回りました。しかし、その中には誤解を招きかねない内容もありました。

そこで今回は、世界的な腰痛の研究者であるPeter O’Sullivan博士が書かれた社説をもとに、タイガーウッズ選手自身の発言と彼の腰痛に関する報道を引用し、腰痛にまつわる4つの誤解について説明します。

タイガーウッズの腰痛から学ぶ、腰痛にまつわる4つの誤解

誤解1.画像検査を受ける事で必ず腰痛の原因が明らかになる

タイガーウッズ選手が受けた画像検査について、「彼の腰痛は、腰にある神経が圧迫されることによって起きている」という報道がありました。

この報道では、腰痛の原因について「腰にある神経が圧迫されることによって起きている」と明言されていますが、これを鵜呑みにする前に知っておくべきことがあります。

それは、MRIやレントゲンなどの画像検査で腰痛の原因が明らかになるのは非常に稀であり、また、画像検査で異常が見つかったとしても、それが必ずしも腰痛を引き起こしている原因とは限らないということです(参考文献②)。
(参考:レントゲンの異常所見と腰痛は一致するのか?

ではなぜ画像検査を受けるのでしょうか?それは、画像検査には腰痛の原因になりえる重篤な疾患(骨折やがんなど)を見逃さないための重要な役割があるからです。

多くの場合、腰痛を引き起こす要因は、画像検査でわかる骨や神経などの異常だけではなく、日々のライフスタイル、仕事の内容やストレスなど様々です。

そのため、腰痛の原因は、画像検査だけから判断するのではなく、複数の要因を踏まえて考える必要があります。

誤解2.ヘルニアになったら手術をしない限り痛みはよくならない

タイガーウッズ選手が受けた手術について、「数か月間続いている腰痛の原因になっている腰の神経の圧迫を解消するため、タイガーウッズ選手はヘルニアを摘出するための手術を受けた」という報道がありました。

もし、タイガーウッズ選手のように、ヘルニアを持っている患者さんがこの報道をみたら、おそらく「ヘルニアを治すには手術が最適な方法に違いない」と思うでしょう。

しかし、Peter O’Sullivan博士は、この手術が本当に必要なのは、ヘルニアによって神経根(脊髄から出てくる太い神経)が圧迫され、足の力が入らなくなっている、もしくは足の感覚が無くなっているなどの神経症状のある人に限定すべきだと考えています。
(参考:私の腰の椎間板ヘルニア、手術するべき?手術を検討する際のポイント

その理由として、椎間板ヘルニアと聞くと、先の例にあげたように、「すぐに手術が必要だ!」と考える人もいますが、実際に手術が必要となることは少なく、多くの場合、ヘルニアは時間とともに小さくなるため自然経過でも問題ないとされます。
(参考:あなたのヘルニアは何タイプ!?実は自然に消失することも

また、椎間板ヘルニアに対して手術を行わなかった場合に腰の痛みが回復しないケースでは、ヘルニアの改善度合いが悪かったわけではないと考えられています。

手術を行わなかった人を調査した研究では、ヘルニアの改善度合いと痛みの改善などの症状は関連性が小さく、腰痛には、ヘルニア以外にも日々のライフスタイル、仕事の内容やストレスなど様々な要因が関与している可能性があります(参考文献③)。

そのため、足に力が入りにくかったり、感覚が乏しくなっているような神経症状がでている人に関しては、手術でヘルニアを取り除くことで物理的な神経への圧迫を取り、神経症状を改善させる効果は期待できますが、痛みの要因が他にもあった場合には、必ずしも腰痛を改善できるとは限りません。

タイガーウッズ選手が受けた手術は、腰痛の原因を完全に取り除き、治すための手術ではありません。

誤解3.腰痛を治すには骨盤の中心にある仙骨のズレを治さなければならない

私の仙骨の位置がズレていたので、理学療法士によってもとに戻してもらった」タイガーウッズ選手自身の発言です。

この記事をお読みになっている方の中にも「左右の骨盤がズレている」「仙骨の位置がズレている」ということを言われて不安に感じたことがある方もいるかもしれません。

ところが、実際には「仙骨の位置がズレる」ということは考えづらいとされています。

骨盤は下の図のように仙骨と腸骨という2つの骨で構成されており、両者は仙腸関節という関節で繋がれています。「関節」と言うと、肩関節と股関節のように、自由に動かすことができるように聞こえますが、仙腸関節は靭帯(じんたい)や関節包(かんせつほう)という組織で固定されており、ほとんど動かないとされています。

仙腸関節は強固な関節です。仙骨の位置がズレることや仙骨を人の手で動かせる可能性は低いでしょう。

骨盤

(c) BackTech Inc.

誤解4.体幹の筋肉を鍛えなければ腰痛の痛みは改善しない

私は体幹の筋肉を鍛えなければ、ゴルフ中の腰の痛みを取ることができない」これもタイガーウッズ選手の言葉です。

タイガーウッズ選手のように、腰痛になったら、まずは、体幹の筋肉を鍛えるべきだと思う方は多いのではないでしょうか?

運動する事は、腰痛に対して様々なメリットがあるということを多くの研究が示しています。ところが、体幹のトレーニングをすることが、他のトレーニングより良いという医学的根拠はほとんどありません。
(参考:腰痛に対する体幹トレーニングの効果

そのため、体幹トレーニングにこだわらず、まずはご自身が取り入れやすい運動(ウォーキング、ヨガなど)から始めるのがよいでしょう。

情報を正しく吟味しましょう

今回の記事では、「タイガーウッズの腰痛に学ぶ、腰痛にまつわる4つの誤解」をお伝えしました。

インターネットを探せば、いくらでも腰痛に関する情報を調べることができる便利な時代ですが、ウェブサイト上の腰痛に関する情報の”質”を調べた調査では、約87%もの情報は科学的な根拠に関する記載がなかったといわれています(参考文献④)。

どんな偉大なスポーツ選手や有名なメディアからの発信でも、間違った情報が混ざっている可能性は否定できません。またニュースを読んだ時に自分自身が誤って解釈してしまうかもしれません。

すぐに鵜呑みにせず、情報を正しく吟味することを心がけるようにしましょう。

健康に関する情報を正しく吟味する方法については、「健康情報の信頼性を確かめるための3つの基準」でご紹介していますので、詳しく知りたい方はぜひご参照ください。

(田中献人)


▼ 参考文献①
タイトル:Common misconceptions about back pain in sport: Tiger Woods’ case brings five fundamental questions into sharp focus.
雑誌名:Br J Sports Med. 2015 Jul;49(14):905-7. doi: 10.1136/bjsports-2014-094542. Epub 2015 Feb 9.
[PMID:25807161]
▼ 参考文献②
タイトル:Three-year incidence of low back pain in an initially asymptomatic cohort: clinical and imaging risk factors.
雑誌名:Spine (Phila Pa 1976). 2005 Jul 1;30(13):1541-8; discussion 1549.
[PMID: 15990670]
▼ 参考文献③
タイトル:Conservatively treated massive prolapsed discs: a 7-year follow-up.
雑誌名:Ann R Coll Surg Engl.2010 Mar;92(2):147-53.
[PMID: 19887021]
▼ 参考文献④
タイトル:Low Back Pain and Internet: Infopollution.
雑誌名:Turk Neurosurg. 2017;27(5):804-808.
[PMID: 27858395]

  • *当記事は、健康に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の医学的見解・治療法を支持・推奨するものではございませんので、ご了承ください。
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