慢性的な痛みに関連する重要な心理的要因とは?ー110の研究結果からー

監修者青山朋樹 / 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 教授(医師、Ph.D)

ライター山下真司 / 理学療法士 / 修士号(医学)

痛みと心理的要因

(c) kei907 - Fotolia.com

【記事のポイント】
1. 慢性痛は様々な心理的要因と関連し、中でも、痛みに対する不安や自己効力感(ある課題に対して、それができるかどうかの自信など)が強く関連することが分かった。
2. 身体の痛い状態が続くと、気持ちが落ち込み、何かをする自信がなくなっていくかもしれない。
3. 認知行動療法やマインドフルネスなどの心理的な手法を行って気分をラクにし、痛みを和らげていこう!

心理的ストレスが肩こり・首の痛みの原因かも!ー28の研究結果からー」などでもお伝えしたように、肩こりや腰痛などの慢性痛は、ストレスなどの心理的な要因で生じることが多いと言われています。

しかし、心理的な要因はストレスだけでなく、不安や抑うつ症状、怒り、自己効力感など、様々なものがあります。例えば、腰が痛いのが長く続くとイライラしてくる方もいるでしょう。もしくは腰が痛いあまり、激しい運動を行う自信がないという方もいるのではないでしょうか?

そこで今回は、このような心理的な要因と慢性痛との関連を調査した110個の研究結果をまとめた論文をご紹介します。

質の高い論文のみを使用

この調査は、過去に報告された内容の論文をチェックし、結果をまとめる手法を用いました。この手法を用いることで、多くの研究の結果を反映することが出来ます。

はじめに、過去の論文を検索した結果、全部で14,725本の論文が見つかりました。その上で、下記のような内容を含む7つの条件を設定し、条件に適さない論文は除外していきました。


■ 16歳以上を対象とした報告であること
■ 3ヶ月以上の慢性痛を持続的に経験している方を対象とした報告であること
■ 慢性痛を有する対象者とは別に対照群(慢性痛のない群)を設けていること
■ 標準化された自記回答式の評価ツールを用いていること

また、脊髄損傷や医学的な疾患による慢性痛は除外し、最終的に110の論文を用いて解析を行いました。

様々な心理的要因が慢性痛に強く関連!!

解析の結果、心理的な要因(うつ、不安、怒り、敵意、自尊心、自己効力感など)と慢性痛との関連が確認されました。

中でも、痛みに対する不安自己効力感が強い関連を示していました。

痛みに対する不安と慢性痛との関連

痛みに対する不安」とは、痛みがあることで不安や苦痛、体を動かすことや運動に対する恐怖を感じたりすることで、後述する一般的な「不安」とは定義が異なります。

例えば、1度経験した腰痛が再発しないよう、激しい運動を避けたりするような場合などは、「痛みに対する不安」に含まれます。

合計18の報告で「痛みに対する不安」を調査しており、解析の結果、ほとんどの報告で非常に大きく、有意な関連を示していることが分かりました。

自己効力感と慢性痛との関連

自己効力感とは、ある課題に対して「自分はそれが出来るかどうか?」という期待や自信の程度を指します。自信がない人ほど、自己効力感が低いと言うことが出来ます。

今回は、全般的な自己効力感だけでなく、「痛みがあっても物事を楽しめるかどうか」や、「ほとんどの場合、痛みに対応出来るかどうか」といった痛みに対する自己効力感も含まれます。

この調査では、110本の報告のうち4つの報告で、自己効力感と慢性痛との関連を調べていました。その結果、慢性痛を有する人と層でない人の間で自己効力感に大きな差があり、慢性痛があると、人生の変化や課題の習熟に対する自信が低いことが分かりました。

抑うつ症状と慢性痛の関連

抑うつ症状は最も一般的に評価されている心理的指標です。今回の調査では、抑うつ症状と慢性痛との関連を検証した報告は、110の論文のうち77本ありました。

解析の結果、両者の関連の平均は中程度であることがわかりました。これは報告によって関連度合いに多少のばらつきはありましたが、1つの報告を除いた全ての報告で同様に関連していました。

つまり、抑うつ症状と慢性痛との関連は一貫していたと言えるでしょう。

不安と慢性痛の関連

不安は抑うつ症状に次いで一般的に評価されている心理的指標です。今回の調査では、110の報告のうち40本で不安と慢性痛の関連を検証していました。

解析の結果、2つの報告を除いた38本の報告で、慢性痛を有する人の方が不安のレベルが高いことが分かり、こちらも一貫した結果が得られたと言えるでしょう。

身体化と慢性痛との関連

身体化」とは、心の不安や心理的なストレスを身体症状のかたちで訴えることを指します。場所が限局されず、痛みにも痛みの場所や時間帯、痛みの程度などの一貫性がないことが特徴です。

この調査では、110本の報告のうち16つの報告で、身体化と慢性痛との関連を調べていました。その結果、身体化の症状を有する人は有意に慢性痛を経験している対象者で多いことがわかりました。

怒りや敵意と慢性痛との関連

腰痛が3ヶ月以上も続いたら、イライラするし多少の怒りを感じることもあるでしょう。

この調査では、このような怒りや敵意に着目した報告が8本見つかりました。解析の結果、全体的な関連は中程度でしたが、個々の報告で測定値や統計学的有意差にばらつきがあり、一貫した結果とは言えませんでした。

したがって、怒りや敵意といった感情と慢性痛との関連は未だ不透明と考えるのが適切でしょう。

自尊心と慢性痛との関連

最後に、自尊心(Self-esteem)と慢性痛との関連をご紹介します。この自尊心は、プライド(prtide)とは少し異なり、自分の存在そのものが尊いかどうかといった要素を評価しています。つまり、「自分は価値ある人間だ」と感じる感覚のことを指します。

今回の調査では自尊心と慢性痛の関連を調べた報告が3つあり、平均して中程度の関連を認め、どの報告でも一貫した結果を示しました。

つまり、慢性痛を持たない人の方が全般的に自身に対して肯定的な感情を持っていることになります。

自分を見つめ直してみよう

今回の調査では、心理的な要因と慢性痛との関連を検証した報告をご紹介しました。その結果、抑うつ症状や不安、自尊心とは中等度の関連を認めましたが、中でも、痛みに対する不安や自己効力感と強い関連を認めました

今回の報告では、心理的な要因が慢性痛を引き起こしているのか、または慢性痛が生じることによって心理的な要因に影響が出るのかまでは明確にしていませんが、自身の感情や気持ちをコントロールする必要がありそうです。また逆に、痛みを改善することで、心理的な面でも良い影響が出る可能性も考えられます。

腰痛などの慢性痛に対しては、認知行動療法の効果が幅広く示されています。認知行動療法とは、物事(慢性痛)に対する自身の考え方や行動パターンを認識し、その考えを変えていくことで、感情や症状を改善する治療法の一つです。

また、マインドフルネスも痛み対策としての効果が示され、近年注目を集めています。マインドフルネスとは、過去や未来に思いをめぐらせることなく、その瞬間、瞬間に、目の前にある物事や自らの考えや気持ちに集中して注意を向ける取り組みのことです(詳しくは「マインドフルネス vs. 認知行動療法 vs. 通常ケア ー慢性腰痛対策の費用対効果の比較ー」をご覧ください)。

マインドフルネスの具体的な方法は「マインドフルネスの方法7選を学んで、腰痛を改善しよう!」に記載しておりますので、ぜひ実践してみてください。

(山下真司)


▼ 参考文献
タイトル:Psychological functioning of people living with chronic pain: a meta-analytic review.
雑誌名:Br J Clin Psychol. 2015 Sep;54(3):345-60.
[PMID: 25772553]

  • *当記事は、健康に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の医学的見解・治療法を支持・推奨するものではございませんので、ご了承ください。
  • *本サービスにおける医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではございません。そのため、本サービス上の情報や利用に関して発生したいかなる損害についても、弊社は一切の責任を負いかねますことをご了承ください。なお、診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関にて受診いただきますことをおすすめいたします。

あなたにあった腰痛予防があります!

腰痛予防マニュアル
無料ダウンロード 

腰痛といっても、人によってその原因も違えば、対策も変わってきます。その中でも特に職業は腰痛と密接な関係があります。そのため、職業ごとに適した対策をしていくことが重要となります。

  • デスクワークが多い人
  • 肉体労働が多い人
  • 立ち仕事が多い人
  • 運転をすることが多い人

それぞれの職業に合った対策を凝縮した『腰痛予防マニュアル』を早速ダウンロードして、今日から腰痛対策をはじめてみませんか?

メールアドレス



SNSで購読

こちらも読まれています