2023年度の健康経営顕彰制度の3つの主な変更/検討点について解説します。

2023年度 | 健康経営顕彰制度

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2022年7月26日(火)の17:00より、第6回 健康投資ワーキンググループが開催されました。本ワーキンググループの議事次第はコチラをご参照ください(全ての資料はこちら)。主な議論点は「今年度の健康経営顕彰制度の設計等について」です。

健康経営顕彰制度は、これまで国が運営してきましたが(シンクタンクに委託)、今年度より、補助事業として日本経済新聞社に委託することで、民間運営化による認定法人向けのサービス向上を目指しています。

そのような大きな変更があることを背景に、「情報開示の促進」「業務パフォーマンスの評価・分析」「データ利活用の促進」という3つの視点を中心に健康経営顕彰制度の設計について議論されましたので、下記に解説していきます。あくまで現時点での方針「案」として捉えて頂きながら、ご一読ください。

人的資本経営と健康経営

健康経営の拡大

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

2014年より開始した健康経営認定制度ですが、エントリーしている法人数は、2021年度時点で約1万5千社に拡大しています。日経平均株価を構成する225社のうち84%が健康経営度調査に回答していることからも、健康経営の市場への広がりが、年々本格的になっていることを感じ取ることができます。さらに、健康経営優良法人に認定された法人で働く従業員数は770万人となり、日本の被雇用者の13%を占めています。

新しい資本主義における健康経営の位置づけとして、令和4年3月2日には、第208回通常国会 参議院予算委員会にて、岸田総理が下記のように発言されており、非常に重要な立ち位置であることが分かります。

「新しい資本主義」においては、官と民が協働することで、国民一人一人が豊かで生き生きと暮らせる社会を構築することを目指しております。そうした意味で、従業員の活力や生産性の向上につながる取組や労働環境の改善といった健康投資は、「新しい資本主義」の中でも重要な要素だと考えています。
日本では、主要上場企業が自社の健康投資の取組を開示する動きが広がっています。日本が世界をリードできる可能性を持つ分野であると承知しています。私自身も昨年12月、各国首脳や国際機関が参加する東京栄養サミット2021の中で、「健康経営等の推進」を発信したところです。引き続き、機会を捉えて、世界に向けた発信を行ってまいりたいと思います。

令和4年5月13日に、経済産業省が発表した人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書(人材版伊藤レポート2.0においても健康経営への投資とウェルビーイングについて、下記のようにその重要性が示されています。

  • 法的に義務付けられている社員の安全確保や健康に対する配慮を超えて健康経営を実践することは、社員の健康保持・増進によって生産性や企業イメージ等を高めるだけでなく、組織の活性化や企業業績等の向上も期待されることから、経営陣に求められる重要な取組の一つとなっている。
  • また、社員のエンゲージメントの向上につながることから、心身を健康にするだけでなく、熱意や活力をもって働くことを実現する社員の Wellbeing も、視点として重要である。
人的投資と企業価値向上のつながり

【出典】内閣官房非財務情報可視化研究会(第6回(2022年6月20日))資料より.

また、内閣官房「非財務情報可視化研究会」人的資本可視化指針(案)では、人的投資と企業価値向上のつながりのイメージが可視化されており、人的資本への投資は、例えば教育訓練費は財務会計上費用計上されるなど、短期的には資本効率を低下させる側面もあるが、中長期的な観点からは、経営戦略・施策の推進を支える基盤として、財務指標の改善、資本効率の向上、ひいては企業価値の向上をもたらすドライバーとなりうるものとしています。

人的資本経営では、非財務指標を対外的に開示することが、企業価値向上につながるとされていますが、健康経営においても株価・企業価値の向上の(機関投資家の興味を引く)ためにもワークエンゲイジメント、アブセンティーズム、プレゼンティーズムの開示ニーズが高まってきています。人的資本経営と健康経営は切っても切れない関係にあると言えます。

健康経営度調査の設問項目の改定案

冒頭でも触れましたが、「情報開示の促進」「業務パフォーマンスの評価・分析」「データ利活用の促進」という3つの視点を中心に健康経営顕彰制度の設計について議論されましたので、その詳細について深掘りしていきます。

情報開示の促進

人的資本に関する非財務情報の開示・評価の動向を踏まえ、経営層のコミットメントや施策のアウトプットに関する定量的な情報について、フィードバックシート一括開示項目に追加することが検討されています。

これまでの取り組みとして、令和3年度健康経営度調査に基づき、情報開示を了承した2,000社分の評価結果を、経済産業省ウェブサイトで一括開示する取り組みがされています(2,000社分の評価結果はコチラ)。

フィードバックシートの開示に取り組む2,000法人の令和4年4月時点の時価総額は、日本の全上場企業の価値の59%(413兆円)を占めるとされています。特に大型銘柄での開示が進んでいます。

上場銘柄ごとの非財務情報開示率

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

開示されているエクセル資料を見ていただくと、健康課題への対策に係る取組(メンタルヘルス、女性の健康など)に加え、従業員間コミュニケーションやワークライフバランスなどの取組状況の偏差値も開示されており、ESG投資家、就職活動をする学生、健康経営に取り組む企業など、様々な視点から有効活用が可能な情報となっていることがわかります。

開示情報の更なる活用に向けて、国際的な非財務情報開示の推奨項目や、基準検討委員会、投資家等の意見を踏まえ、令和4年度フィードバックシートでは定量的な項目の追加を検討しており、具体的には、①経営層の関与を示すものとして「経営会議での議題化の内容・回数」、②社内への浸透を示すものとして「健康経営施策への従業員の参加率」の開示検討がされています。

健康経営度調査における開示情報の追加検討

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

業務パフォーマンスの評価・分析

従業員のワークエンゲイジメント(仕事へのポジティブで充実した心理状態)やアブセンティーイズム(傷病による欠勤)、プレゼンティーイズム(出勤はしているものの健康上の問題によって完全な業務パフォーマンスが出せない状況)等に関する測定状況は引き続き、今年度も問われる方針です。

健康経営優良法人(大規模法人部門)における今年度の変更点として、任意解答とし、評価には用いないものの、業務パフォーマンスの経年変化や測定方法に関する開示状況についても問う方針であるとしています。将来的には、健康経営に取り組む企業が自ら、こうした情報をストーリー立てて、ステークホルダーとの対話に活用することが望ましいとされており、人的資本経営の価値創造ストーリー構築(価値協創ガイダンス)の取り組みが参考になりそうです。

ワークエンゲイジメントについては、健康経営度調査に回答している法人の約1/4が、新職業性ストレス簡易調査票(厚生労働省研究事業により作成)を用いた従業員向け調査により、「活力」と「熱意」に関するデータを保有していると考えられるため、法人間での比較可能なデータを収集し、健康経営の効果分析を深化させる観点から、今年度より、同データを保有している法人にその結果を回答いただく方針です。

共通指標(ワークエンゲイジメント)のデータの収集

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

これらの指標の開示は、機関投資家の開示ニーズともマッチしている一方で、ワーキンググループの議論では、「プレゼンティーズムの指標が統一されていないし、どうしたら改善するかも情報がまとまっていない」「経営者にプレゼンティーズムデータを示しても、興味を示してくれない」などの様々な議論が行われており、今後の方針に着目すべき点です。

健康経営の定量的な指標に関する企業の開示状況と投資家のニーズ

【出典】健康・医療新産業協議会 第4回健康投資WG資料より.

データ利活用の促進

データの利活用においては「事業主健診情報の活用」と「ヘルスリテラシーの向上」が主要な議論テーマとなりました。

「事業主健診情報の活用」においては、評価には用いないものの、効果的・効率的な保健事業の実施に向けて、40歳以上の従業員のデータ提供に加え、40歳未満の従業員のデータ提供についても、新たに設問を設けること、そして、更なるデータの利活用の促進に向けて、データ提供における形式についての質問の追加について、議論がされています。

事業主健診情報の活用

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

「ヘルスリテラシーの向上」における今年度の変更点として、従業員のヘルスリテラシーの向上を促すための取組として、健診情報等を電子記録として閲覧するための環境整備を行っているかを問う予定としており、下記に示す解答項目の内容について、様々な議論がされていました(「1, 2の回答の障壁は高いのではないか」など)。

ヘルスリテラシーの向上

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

健康経営銘柄2023認定要件の変更点

昨年度までは「健康経営度が上位20%以内」の企業を候補としていたものの、回答法人数の増加を踏まえ、かつ、健康経営銘柄はホワイト500の中から選ぶという方針に基づき、「健康経営優良法人(大規模法人部門)申請法人の上位500位以内」とする方針であり、かつ、健康経営銘柄ブランドの価値を維持する観点から、「1業種最大5枠」とする方針案を打ち出しています。

健康経営銘柄2023の選定基準案

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

健康経営銘柄2023選定基準及び健康経営優良法人2023(大規模法人部門)認定要件案は下記の通りです。

大規模法人2023案認定案

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

ブライト500認定要件の変更点

中小企業部門におけるブライト500においては、健康経営の質をより高める観点から、従来問うていた社外への情報発信に加え、「PDCAの取組状況」及び、「経営者・役員の関与度合い」についても評価を行う方針です。配点のウェイトも変更検討がなされていますので、ブライト500を目指す法人においては、要チェックです。

ブライト500選定方法案

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

健康経営優良法人2023(中小規模法人部門)認定要件案は下記の通りです。

健康経営優良法人2023(中小規模法人部門)認定要件案

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

健康経営指標としての無形資源

これまで、第6回 健康投資ワーキンググループでの議論の基盤となった方針案について説明してきましたが、主な議論点は下記とされていました。

  • 人的資本に関する非財務情報開示の推奨項目等を参考に、「経営会議での議題化の内容・回数」及び「健康経営施策への従業員の参加率」をフィードバックシートによる一括開示の項目に加えてはどうか。
  • ステークホルダーによる健康経営の評価を高めるには、どのように開示情報の充実を図るべきか。また、企業に更なる開示を促すためには、投資家から、実際に投資判断で活用している旨を公表してもらうことなども重要と考えられるが、どのような方策が考えられるか。(参考:スチュワードシップ活動報告書で「健康経営」に言及している大手機関投資家も存在。)
  • 健康経営に取り組む企業が自ら、業務パフォーマンス指標を測定し、ストーリー立てて、ステークホルダーとの対話に活用することが望ましい。そこで、業務パフォーマンスの経年変化や測定方法に関する開示状況について問うてはどうか。
  • 効果的・効率的な保健事業の実施のため、健康経営度調査において、「40歳未満の従業員のデータ提供」や「データ標準フォーマットの活用状況」について問うこととし(本年度は評価しない)、次年度以降、評価してはどうか。

後日、議事録が公開されるということでしたので、情報がアップされ次第、本記事にも掲載していきます。

追加の議論として、業務パフォーマンスも重要な指標であるという認識はされつつも、健康経営における無形資源の価値についても深く議論がされました。

“無形資源”と指標の評価・開示について

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

産業医科大学の森晃爾教授の参考資料2において、健康経営における無形資源として、下記の3つの指標が事例として記載されており、パフォーマンス指標、離職意識等の経営指標の先行要因となることが報告されました。

  • Perceived Organizational Support(従業員は、ウェルビーイングの実現に向けた会社の支援姿勢を、どのように認知しているか?)
  • Workplace Social Capital(従業員どおしの結びつきや信頼関係は、どの程度強いか?)
  • Psychological Safety(従業員は、どの程度、職場で安心して自分の考えを述べることができているか?)

特に興味深かったのが、経営層が興味を持ってくれる指標は何か?という議論の中で、経営者が興味がある指標と、健康経営担当者が「この情報は当社の経営層は興味があると思う」という指標にギャップがあるということも言われており、今後、更なる取り組みの進化と深化が必要であると言えます。

まとめ:ステークホルダーを意識した健康経営を

人的資本経営や人的資本の開示方針と同様に、健康経営の取り組みにおいても、業務パフォーマンスや無形資源などの非財務情報の開示が重要な要素となっており、それをただ単純に開示するのではなく、ストーリーとして各ステークホルダーに語りかける必要性があります

当社では、中長期の経営戦略と健康経営戦略との連動性を確認・意識しながら、経営視点での健康経営のPDCA支援を得意としていますので、ぜひ健康経営のお困りごとがある場合は、お気軽にお問い合わせください。

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