【後編】社員自身が『選ぶ』健康経営
―自己決定と伴走でつくる持続可能な施策設計―

人事グループ 健康推進ユニット 藤田 篤史様 (左)
      (同)      菅原 慶吾様(右)

前編の「宣言したのは「行動」ではなく、「心の状態」 – 人的資本経営を支える、三菱食品の健康文化の舞台裏 –」では、三菱食品株式会社が「自己肯定感・自己効力感」を軸に健康文化を育ててきた歩みを伺いました。

後編では、その文化を醸成され、成果につながる施策へどう翻訳するか。健幸ハピネスアクション、年齢別の健康サポートプログラム、そして運動領域での専門職パートナーであるポケットセラピストの活用まで、施策設計の中身を具体的に伺います。

社名
三菱食品株式会社
事業内容
国内外の加工食品、低温食品、酒類及び菓子の卸売を主な事業内容とし、さらに物流事業及びその他サービス等の事業活動
設立
1925年(大正14年)3月13日
資本金
10,630百万円 (2026年3月31日現在)
従業員数
5,239名 (2026年3月31日現在連結)
事業所
本社:東京都文京区小石川一丁目1番1号
事業所:6拠点
URL
https://www.mitsubishi-shokuhin.com/

食のライフラインを支える心身の課題に向き合い、たどり着いた健康投資の在り方

― 健康に投資する背景には、どのような課題があったのでしょうか。

藤田様(以下、敬称略):卸売業は従来、男性が多い業界で、当社の年齢のボリュームゾーンは50代後半にあります。食を扱う仕事柄、営業が発売前のサンプルを口にする機会も多く、生活習慣のリスクには正面から向き合う必要がありました。

近年の当社単体で見ると、デスクワーク中心の業務に従事する社員が多く、運動不足などフィジカル面の課題があります。

菅原様(以下、敬称略):一方で、見落とせないのが精神的な負担です。食のライフラインを預かる以上、物流は24時間365日止められません。小売業などの取引先からのお問い合わせや在庫管理など、社員にとって精神的な負担を感じる緊張感の高い場面が少なくないことは、卸売業界の特徴の一つです。

身体と心、その両面のコンディションをどう支えるか――ここが私たちの出発点でした。だからこそ、健康を“コストではなく投資”として捉えています。

― 施策をつくるうえで、共通する設計思想はありますか。

藤田:大切にしているのは「自分で決めてもらう」ことです。自分で選んだからこそ納得して継続できる。前編でお話しした「自己決定感」を施策の根底に仕込んでいます。

そしてもう一つ、精神的なウェルビーイングに欠かせない要素として、「人が人を思いやり、応援し合うことで生まれる幸福感」も大切にしています。お互いを認め、応援し合う温かい文化を社内に育むため、私たちは様々な「エール(応援)施策」を展開しています。

例えば、仕事と運動を両立して輝く社員を社内イントラで紹介する「スポ活」。周囲から「すごいね!」と声をかけられることで、紹介された本人の自己肯定感が高まる好循環が生まれています。

また、子育て世代向けには、子どもの自己肯定感を高めるコーチングプログラムを内製化して届けており、3年間で延べ150人ほどが受講しました。

自分で人生をコントロールし、応援し、応援されながら、明るく前向きに働ける会社。そんな環境を、各施策を通して作っています。

保健指導により自己肯定感を高める、健幸ハピネスアクション

― 自己肯定感を高める取り組みとして象徴的な施策が、保健指導の一環である「健幸ハピネスアクション」だと伺いました。どのような内容でしょうか?

藤田:従来の保健指導は、どうしても過去の不摂生を指摘して「このままだと病気になりますよ」からスタートしがちです。これでは自己肯定感も自己効力感も削がれてしまい、前向きに参加できない。だから私たちは、自己肯定感をむしろ高める保健指導を作れないかと考えました。

保健師との初回面談時に、まずは「子どもの運動会で、他のお父さんに負けないくらい走れる自分でいたい」など、”将来ありたい姿”を描いてもらう。それを元に、食事・運動・睡眠・メンタルヘルス・禁煙という五つのテーマから、自分で取り組むものを選んでもらう。複数でも、一つのテーマだけでも構いません。ここで、自己決定することが重要です。

そして、それぞれのテーマに合わせて専門職にバトンタッチします。食事は管理栄養士、運動は理学療法士、睡眠は睡眠の知見を持つ社内の保健師、メンタルヘルスはカウンセラー、禁煙は社外の保健師あるいは社内のサポーターが応援する、という具合です。

3か月後には、結果が出ても出なくても、まずは取り組んだことを認める。これにより自己肯定感が生まれます。そのためには、伴走する保健師にコーチングの研修を受けてもらい、やる気を引き出すアプローチを徹底しています。

― 保健師の方だけでなく、様々な分野のプロフェッショナルが連携してサポートされる体制が素晴らしいですね。

菅原:大切にしているのは、その人の目標ごとに専門職を最適に組み合わせることです。一人の保健師がすべてを担うのではなく、運動なら運動のプロ、食事なら食事のプロが伴走する。

そして、生活習慣のリスクを複数抱えている方も少なくないので、たとえば食事指導の問診で運動習慣がないと分かれば、そこから運動の伴走へとつないでいくことも可能です。専門職同士が連携することで、一人ひとりに効果的な支援が届けられると考えています。

年齢別の“先回り”施策、ジェネレーショナル・ヘルス・サポートとは?

― ワークとライフのコントロールでは、年齢ごとの取り組みも重要ですね。
三菱食品ならではの取り組みはありますか?

藤田:私たちは「ジェネレーショナル・ヘルス・サポート」という仕組みを通じて、特定の年齢に達した社員に向けて、年齢ごとのアプローチをご案内しています。

人生には、ライフステージの変化や予期せぬアクシデントなど、さまざまなことが起こります。大切なのは、事前に準備をして「自分の人生をコントロール(想定内に)できる状態」を作っておくことです。年齢が上がるにつれて高まる健康リスクに対し、しっかりとした知識を持って、主体的に行動してもらう。そのために、年齢ごとに必要な知識やリスクアセスメントを、先回りしてお届けしているのがこの仕組みの特徴です。

具体的には、25歳ではEQ(心の知能指数)のアセスメントで自己分析と対策セミナーを、30歳では生活習慣の見直しを、40歳では介護のリテラシーを、45歳では更年期対策を。そして60歳では、まだまだ元気に働いていただくために、体力維持のチェックを行います。

菅原:体力維持の取り組みでは、昨年、ポケットセラピストのAI姿勢健診も活用したイベントを東北支社と九州支社の2拠点で実施しました。誰しも日頃から気になる姿勢を客観的に見れるということで、参加者が多く、今年は社内で人気ナンバーワンの企画になっています。

「人が伴走し、応援する」コンセプトへの共感と、プロによる圧倒的なサポート力

― ありがとうございます!ポケットセラピストの利用について深掘りさせてください。導入のきっかけや、選んだ決め手は?

藤田:ちょうど健幸ハピネスアクションの「運動」をどの専門職に託すかを考えているタイミングで、ポケットセラピストを知りました。「人が伴走して応援する」という私たちのコンセプトに、ぴったりはまるサービスだと感じました。伴走力が、まず一番の決め手です。

菅原:特に、国家資格をもつ医療職の伴走はとても魅力的だと思います。理学療法士や作業療法士という専門性の高いプロには、普通は病院に行かないと会えません。それを自己負担なく、オンラインで相談させてもらえる。さらに、相談で終わらずにその後も伴走し続けてくれる。

この価値は、一般にはなかなか伝わりにくいと思います。ですが、同じような資格を持つ私から見ると、このようなサービスが身近にあるのはとてもありがたいと感じています。
(編集注:菅原さんは柔道整復師の資格を持っていらっしゃいます)

藤田:サービスを提供しているバックテック社員の皆さんの熱意も決め手の一つでした。我々の話を聞く姿勢から、本気で運用に向き合ってくれると期待できたことが大きいです。

一人では続かないセルフケアも、プロの伴走があれば「習慣」に変わる

― 継続利用という観点でいうと、健康増進では従業員の行動変容が重要だと思います。
その点で、ポケットセラピストを活用する上での工夫があれば教えてください。

藤田: 施策を単発で終わらせず、その後の行動変容まで設計するうえで、人の伴走が一番効くと考えています。

利用を始めるには、”小さな入口”を用意しています。たとえば管理栄養士の食事指導の際に、問診データを見て運動習慣のない方には「こちらもどうですか」とポケットセラピストをご案内する。あるいは健康増進イベントで、体組成や運動能力の結果を見て「何から始めるか理学療法士に相談できますよ」と勧める導線もあります。

そうすると「気になることがあるから聞いてみよう」「相談だけでもしてみよう」と行動にうつしてくれます。一度相談ができれば、自分の状況を理解している専門家に「ステップアップ」や「次の相談」ができて、継続しやすくなる。

菅原:利用者からも「面談を重ねるなかでセラピスト(専門職)と関係性が築けている」「自分の状態に合わせて提案してくれるから続けられる」という声が届いています。毎回の面談で体の状態を確認し、その都度提案を変えてくれる。そこが続けられる理由なのだと思います。

藤田:何かを継続するのは、人は一人では難しい。自分の力だけで続けられる人もいますが、多くの場合は誰かの伴走がないと、途中で諦めてしまう。だからこそ、専門職が一人ひとりに寄り添って応援してくれることに、大きな価値を感じています。

ポケットセラピスト以外にも様々な施策やイベントがありますが、それらを“入口”で終わらせず、その後の行動変容まで支えてくれる存在として、私たちの施策設計にしっかり組み込まれているのが大きいですね。

「誰も後悔しない」健康経営へ。データに基づく予防と、効果の可視化に挑む

― 今後、力を入れていきたいことはありますか?

藤田:健康経営の“形”はできました。これからは、本当に社員を健康にしていく、実績を積み上げる段階です。

休職データを分析すると、脳卒中やがんなどの重い疾患を発症する3年ほど前から、健診数値が少しずつ悪化していることがあります。

これを「未然に止めることはできないか」というのが、私たちの共通の想いです。病気や休職によって、人事や産業保健スタッフ、そして何よりご本人が「何かできたんじゃないか」と後悔するのをゼロにしたい。誰も後悔しないために、今できることを尽くしていきます。

― バックテックへの期待もあれば、教えてください

菅原:いつも、情熱の塊だなと感じています。ご提案の一つひとつが、こちらの期待を超えてくる。だからそのまま採用させていただくことも多いんです。せっかくの高い専門性があるので、それを活かした取り組みに、もっと一緒に踏み込んでいけたらと思っています。

藤田:プレゼンティーイズム(出勤していてもパフォーマンスが上がらない状態)は、健康経営に関わっていないと分かりにくく、経営にその損失や効果を分かりやすく示すのは、担当者レベルでも難しさを感じます。

取り組みを重ねることで確実に改善できる。企業、さらには社会への影響も大きいものだからこそ、その成果をどう見える形にするか。私たちを実験台にしていただきながら、そこをぜひ一緒に磨いていけたらと思っています。

2024年 三菱食品の展示会「ダイヤモンドフェア」にて同社の健康経営の紹介パネル前で撮影

「選ぶのは社員自身」という設計思想が、参加のハードルを下げ、続ける力を生み、専門職の伴走で成果へとつないでいく――。

三菱食品様の施策は、健康施策の“参加率”と“成果”の両立に悩むご担当者にとって、再現性のあるヒントに満ちています。

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