「プレゼンティーズム」とは?その可視化方法と運用上の留意点

「プレゼンティーズム」とは?その可視化方法と運用上の留意点

(c)BackTech Inc.

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです(健康経営はNPO法人健康経営研究会の登録商標です)。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されています。

近年の健康経営では、健康経営の効果の見える化を促進するため、業務パフォーマンスの評価・分析が推奨されており、主には、下記の3つの指標が着目されています。

・アブセンティーイズム(傷病による欠勤)
・プレゼンティーイズム(出勤はしているものの健康上の問題によって完全な業務パフォーマンスが出せない状況)
・ワークエンゲイジメント(仕事へのポジティブで充実した心理状態)

健康経営は各種施策を実践することで、健康のアウトカムが改善し、業務パフォーマンスが向上することで、企業価値が向上すると考えられており、ただの健康関連施策を実施しているのではなく、経営施策として実行しているという位置づけであることからも、「プレゼンティーズム」等の業務パフォーマンスを評価・分析することは非常に重要です。
しかし、どのように「プレゼンティーズム」を評価・分析すれば良いのか?という課題は多くの健康経営担当者さまがお持ちだと思います。

そこで、この記事では、「プレゼンティーズム」の具体的な評価・可視化方法と運用上で留意したいポイントについて、詳しく説明します。

健康経営と「プレゼンティーズム」

健康経営において「プレゼンティーズム」「アブセンティーズム」等の業務パフォーマンスが着目されるようになった背景として、欧米の研究において、労働者の健康不調に関わるコスト損失において「プレゼンティーズム」の額が非常に大きいことが報告されたことが最初のきっかけであるとされています。

我が国、日本においては、産業医科大学の永田智久准教授らが実施した研究では(n=12,350名)、「プレゼンティーズム」「アブセンティーズム」「医療費」などを可視化した結果、プレゼンティーズムによる損失が全体の64%と、最も多いことが報告されています(PMID: 29394196)。

プレゼンティーズムの割合

【出典】Nagata T, et al. Total Health-Related Costs Due to Absenteeism, Presenteeism, and Medical and Pharmaceutical Expenses in Japanese Employers.より当社が作成

具体的なコスト損失額は、下記であったことが報告されています。

【年間1人あたりの損失額】※7月30日時点での1ドル133.24円で試算
・アブセンティーズム(11%):$520 USD(日本円:69,287円)
・プレゼンティーズム(64%):$3055 USD(日本円:407,063円)
・医療費 – 外来(13%):$607 USD(日本円:80,879円)
・薬剤費 – 外来(8%):$357 USD(日本円:47,568円)
・医療費/薬剤費 – 入院(4%): $201 USD(日本円:26,782円)

「プレゼンティーズム」の定義とは

プレゼンティーズムへの社会的な着目が集まったのは、スウェーデンの Aronsson らが、2000年に発表した論文で「体調不良・病気で休養を取り仕事を休んだほうが良いにも拘わらず仕事に出る」状況をSickness presenteeismという概念化したところが始まりとされています(PMID: 10846192)。

2000年代になると、信頼性と妥当性のあるプレゼンティーズムによる労働生産性の評価方法が開発されるようになり、プレゼンティーズムはこれまでに下記の4つの意味で使われてきています。

①体調不良で休むべきなのに出勤している状態

プレゼンティーズムの考え方や定義として多くの研究で引用されているのが、先ほど紹介したAronssonらの概念であり、彼らはsickness presenteeismという用語を用いていますが、その後の研究では、sickness presenteeismとpresenteeismを厳密に区別して用いている研究は少なく、またsickness presenteeismをpresenteeismの定義として使用している研究が少なくない状況であるため、本記事ではAronssonらのsickness presenteeismの概念をプレゼンティーズムの一つの考え方と定義しています。具体的には、Aronssonらの論文では次のように記述されています。

“The concept (sickness presenteeism) has been used to designate the phenomenon of people, despite complaints and ill health that should prompt rest and absence from work, still turning up at their jobs.”

Aronssonらは、はっきりと定義としては示していないものの、要点は「体調不良で休養を取り仕事を休んだほうが良いにも拘わらず仕事に出る現象」であるとしており、つまり、その現象をsickness presenteeism(=プレゼンティーズム)と考えていると言えます。

②出勤している労働者の健康問題に関連した労働生産性損失

2003年に米国産業環境医学会(ACOEM)の専門家パネルがプレゼンティーズムは欠勤、社員の離職・交替費用と共に3大構成要素の一つであるとし、「プレゼンティーズムは仕事中の健康に関連した生産性損失である “Presenteeism is the health-related productivity loss while at work.”」と定義しました。

山下らは、わが国におけるプレゼンティーズムの定義として、「presenteeismとは出勤している労働者の健康問題による労働遂行能力の低下であり、主観的に測定が可能なものである」が妥当と考える、としています。この定義では生産性損失という用語は用いられていませんが、主観的に測定された労働遂行能力の低下は生産性損失につながることから、米国産業環境医学会の定義に近いものといえます。

③病気を持ちながら出勤している状態

プレゼンティーズムの定義に生産性の低下を含めるべきではないとして、プレゼンティーズムを「病気を持ちながら出勤している状態」と定義する立場の考え方があります。この定義を用いる第一の理由として、病気のために欠勤するよりも病気を持ちながらも出勤したほうが労働生産性が高いことを挙げています。第二の理由として、定義の中に労働生産性の低下を含めると、病気を持ちながらも出勤するということに関する心理学的・行動科学的な創造的でよりオープンな見方・議論の妨げになることを挙げている。

経営管理的な立場からでも、病気を持ちながら出勤すると労働生産性が低くなるという前提を含むべきではないという観点から、プレゼンティーイズムを「病気を持ちながらも出勤する」という定義を採用しています。このような定義を用いる背景は、慢性疾患や精神疾患の中には、体調が悪くとも出勤したほうが良いこともあるというプレゼンティーズムのポジティブな面も考慮していることが特徴です。

④出勤している労働者の生産性低下

仕事による悩みや職場の好ましくない組織環境、家庭の事情などによっても出勤している労働者の業務能力・生産性低下が起こることに注目して、プレゼンティーズムを労働者の健康に関連した問題に限定しないで、その原因を広く捉えて健康に関連しないものも含むべきだとする立場から、「出勤している労働者の生産性低下」をプレゼンティーズムの定義と考える立場があります。

プレゼンティーズムと対比される欠勤については、健康問題によって会社を休むことだけに限定せず、様々な理由によって休むことも欠勤としていることから、プレゼンティーズムについても健康問題に限定しない定義を用いるべきだとする考え方です。

これまで挙げてきた考え方の中で、どの定義が正解という考えではなく、自社の経営戦略や企業理念・文化にフィットした考えがどれに近いのか、という考えのもと、「当社の考えるプレゼンティーズムは◯◯という意味である」という共通認識を持っておくことの方が重要だと言えます。

なお、経済産業省ヘルスケア産業課の資料では、プレゼンティーズムについて「出勤はしているものの、健康上の問題によって完全な業務パフォーマンスが出せない状況」と定義しているため、日本の健康経営では、出勤している労働者の生産性低下の中でも、特に健康に着目された狭義の意味として、プレゼンティーズムの意味合いが認識されていることが多いと考えられます。

「プレゼンティーズム」の低下要因

健康経営オフィスレポート

【出典】健康経営オフィスレポートより(経済産業省).

この章では、プレゼンティーズムを「出勤はしているものの、健康上の問題によって完全な業務パフォーマンスが出せない状況」という定義に従った場合、どのような低下要因が主な生産性低下を及ぼしているのかを説明していきます。健康経営オフィスレポートでは、プレゼンティーズム指標を悪化させる健康状態として、「肩こり・腰痛・頭痛」「ストレス・うつ病」「心身症」がトピックとして挙げられています。

より詳細のデータとして、産業医科大学の永田智久准教授らが2018年に発表した、日本人12,350名を対象にした研究が分かりやすく、勤労者の労働生産性低下のTOP3は下記という報告をしています(PMID: 29394196)。

【年間1人あたりの損失額】※7月30日時点での1ドル133.24円で試算
・第一位:首の痛み/肩こり:$432.92 USD(日本円:57,684円)
・第二位:睡眠不足:$341.58 USD(日本円:45,513円)
・第三位:腰痛:$264.17 USD(日本円:35199円)

上記の結果は、従業員1人あたりのデータに換算されているため、例えば、「首の痛み/肩こり」に伴う会社全体の生産性低下額(年間)を算出したい場合は、労働生産性低下額に従業員数を乗じて算出してください(下記を参照)。

【会社全体での損失額の概算(首の痛み/肩こり)】
労働生産性低下額57,684円 × 従業員数1,000人 = 5,768万円

当社が永田らと同様の方法を用いて、コロナ禍における日本人勤労者1.7万人のプレゼンティーズムの調査をした結果、テレワークにより睡眠不足が解消され、生産性低下の要因TOP3は「首の痛み/肩こり(年間損失:2,136百万円)」「疲れ/疲労(年間損失:1,902百万円)」「腰痛(年間損失:1,533百万円)」という結果でした。

コロナ禍のプレゼンティーズム要因

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「プレゼンティーズム」と生活習慣病

健康経営は、産業医や産業看護職が推進する産業保健や、健康保険組合が推進する保健事業と同時並行で進めていくことが多いですが、生活習慣病対策でプレゼンティーズムの解消をするという健康経営戦略マップを稀に見ることがあります。

しかし、現状のエビデンスでは、例えば、無治療の糖尿病があった場合には生産性を大きく低下させない(合併症等の治療を開始した糖尿病患者でのみ生産性低下が認められる)、冠状動脈疾患/虚血性脳卒中リスクとプレゼンティーズムの関連はないという報告が多いため、プレゼンティーズム解消(生産性向上)のために行う施策と、産業保健や保健事業施策を全て並列で考えないよう、留意しなければいけません(PMID:32472846; 32951282)。

「プレゼンティーズム指標」の特徴と計算式

それでは、具体的にプレゼンティーズム指標の特徴等について説明をしていきますが、実は、下記の通り、非常に数多くのプレゼンティーズム指標があり、それぞれの特徴を加味した取捨選択が必要です。

プレゼンティーズムの可視化方法

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上記の全ての指標を理解する必要はないため、本記事では、経済産業省の発表資料で公開されているプレゼンティーズム指標について、詳細を説明していきます。

プレゼンティーズム可視化方法の実情

【出典】健康・医療新産業協議会 第4回健康投資WG 事務局説明資料①より.

「WHO-HPQ(日本語版)」を利用した労働生産性損失の計算方法

WHO-HPQは経済産業省ヘルスケア産業課の資料でも、過去に多く登場しているプレゼンティーズム指標であるため、名称を見たことがあるという方は多いのではないでしょうか。WHO-HPQは世界でも広く利用されているプレゼンティーズム指標です。

WHO-HPQは、産業精神保健研究機構(RIOMH)が管理しており、基本的には無償で利用が可能ですが、RIOMHへの入会が推奨されており、年会費は5千円〜10万円となっています。

WHO-HPQ

【出典】データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドラインより.

問3が、過去4週間の生産性を質問したものであり、この程度からプレゼンティーズムが測定されます。例えば、「9」と回答したら、1割の損失ということになります。これは「絶対的プレゼンティーズム」と呼ばれているもので、諸外国では、ほぼこれで測定がされています。

しかし、日本人の場合、この回答値が極めて低くなる傾向があると報告されており(自己評価が低い or 謙遜する国民性の影響か)、絶対的プレゼンティーズムの生産性損失が大きく出てしまう可能性があります。その場合は、質問1(他者の評価)と比較して、回答値の相対化を図ることが推奨されています(計算式:質問3/質問1)。
興味深いことに、日本人の回答は質問1も低くなる傾向があり、WHOが推奨している「相対的プレゼンティーズム」が当てはまる事例と言えます。

なお、プレゼンティーズム指標の特徴は、「疾患非特異的(何が理由で生産性が低下しているかは特定できない)」もしくは「疾患特異的(何が理由で生産性が低下しているかを疾患ごとに特定できる)」のいずれかに分類されますが、WHO-HPQは、疾患非特異的尺度です。そのため、全般的な生産性低下を捉えることは得意ですが、一方で、具体的にどのような健康課題に投資すべきかの判断材料として利用するには限界があります。

「東大1項目版(SPQ)」を利用した労働生産性損失の計算式

東大1項目版(Single-Item Presenteeism Question; SPQ)とは、平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業「東京大学ワーキング」で開発された、1項目の設問によりプレゼンティーズムを簡便に測定できる尺度です(疾患非特異的尺度)。東大1項目版はライセンスフリーで利用可能であり、著作権者は、第三者の自由な再利用を承諾しており、研究目的および商用目的に無料で利用できる調査票です。

東大1項目版の開発の背景として、先行して利用されていたWHO-HPQは、設問の表現が難解であり、実際の使用が難しい尺度であるという声も少なくなかったこともあり、簡易な1つの設問により、回答者が自分のパフォーマンスを振り返り、プレゼンティーズムを測定できる尺度として開発されたことが特徴です。

東大1項目版の設問と計算式は下記の通りで、例えば、設問に対して70%と回答した社員のプレゼンティーイズムは、30%と推計されます。

【設問】
病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として過去4週間の自身の仕事を評価してください。
【計算式】
プレゼンティーズム=100% - 回答値

東大1項目版により測定されたプレゼンティーイズム(以下、SPQ presenteeism)には、WHO-HPQと各因子との関連には観測されなかった、下記の3つの特性があることが報告されています。

・SPQ presenteeismは、食生活や睡眠、喫煙などの生活習慣リスクと有意な関係性がある。
・SPQ presenteeismが小さい、すなわちパフォーマンスが高いと評価された回答者は、中程度のパフォーマンスの回答者と比較して、アブセンティーイズムや心理的健康リスク、睡眠リスクが有意に低い傾向がある。
・SPQ presenteeismは、性・年齢階級や職務内容、雇用形態による違いが比較的小さく、回答者属性の違いによる影響を受けにくい。

「WLQ-J」を利用した労働生産性損失の可視化

WLQ(Work Limitations Questionnaire)は、タフツ大学で開発された、健康問題による仕事上の制約の状況や生産性低下率を測る調査票です(疾患非特異的尺度)。WLQの生産性低下割合を算出する計算式のアルゴリズムは、高い信頼性と妥当性が確認されています(アルゴリズムは非公開ではありますが、タフツ大学と直接契約をすれば入手可能)。

WLQ は「時間管理」、「身体活動」、「集中力・対人関係」、「仕事の結果」という4つの下位尺度を有し、25問の質問項目から構成されています。健康問題によって職務が遂行できなかった時間の割合や頻度を「常に支障があった」から「まったく支障はなかった」の5段階から選択して回答します。スコアの総点は0~100で、高いほど支障が多くなります。WLQは日本語版が井田らによって作成され、WLQ-Jとして、SOMPOヘルスサポート株式会社が窓口となり、販売をしています(参考論文)。

WHO-HPQとSPQと比較して、有料であることが実際の利用のボトルネックになるかもしれません。筆者も京都大学の大学院生時代に、WLQ-Jを用いた研究を行い、慢性腰痛は「時間管理」、「集中力・対人関係」、「仕事の結果」と関連していることを報告しています。

WLQ-J論文

【出典】Yokota J, et al. Association of low back pain with presenteeism in hospital nursing staffより.

「W-Fun」を利用した労働生産性損失の可視化

WFun (Work Functioning Impairment Scale) とは、産業医科大学の藤野善久教授らにより開発された、健康問題による労働機能障害の程度を測定するための調査票です(PMID: 26345178)。心理測定学理論およびRasch modelと呼ばれる数学理論にもとづいて開発されています。

質問は、「ていねいに仕事をすることができなかった」などの簡易的な7つの質問のみで構成され、総得点のみで評価されます。得点が高いほど、労働機能障害の程度が高いことを意味します。外的基準(症状など)との明確なカットオフ値などは設定されていませんが、おおよその捉え方は下記を参照してください。

W-Fun事業所リスク

【出典】健康問題による労働機能障害の評価 プレゼンティーズム測定調査票WFunより.

さらに、下記の基準をもとに事業所診断としても利用が可能です。

【事業所診断のポイント】
・問題なし(13点以下)の労働者が50%以上である
・中等度と高度を合わせて(21点~35点)、20%以下である
・高度(28点以上)が10%以下である
【事業所判定】
・A判定:上記のすべてを満たす
・B判定:上記のうち2つを満たす
・C判定:上記のうち1つを満たす
・D判定:上記全てに該当しない

その他、WFunには、下記のような特徴があります。

・疾患非特異的尺度であり、​​特定の疾患や症状を対象としていない。
・健康情報を用いないため、産業保健職でない職場の担当者でも、取り扱いやすい。
・医学的な症状やその後の休職リスクと強く関連する。
・評価が、性、年齢、職種などに影響されない。
・年齢構成や職種に関係なく、部署間や、会社間のベンチマークが可能。
・「労働機能障害の程度」という一つだけの概念を測定しており、これまで触れてきた狭義の労働生産性低下とは、若干意味合いが異なりますが、一つのプレゼンティーズム指標として解釈されることが多い。

W-Funの利用に関しては、WLQ-Jと同様、SOMPOヘルスサポート株式会社が窓口となっており、研究目的の場合は無償、自社社員への利用の場合は初年度無償(次年度以降は要相談)、商業目的の場合は要ライセンス契約です。

「QQ-method」を利用した労働生産性損失の可視化

The Quantity and Quality (QQ) methodは、4項目で評価する疾患得意的尺度であり、無料で利用が可能です。疾患特異的尺度であるため、プレゼンティーズムの原因が可視化しやすく、施策の検討にも用いやすいという特徴があります。先に紹介した産業医科大学の永田智久准教授の研究論文でも、QQ-methodが利用されており、各症状ごとに損失額の可視化が可能となっています(PMID: 29394196)。

QQ-methodの可視化

【出典】Nagata T, et al. Total Health-Related Costs Due to Absenteeism, Presenteeism, and Medical and Pharmaceutical Expenses in Japanese Employersより.

QQ-methodによる生産性低下割合及び損失額の計算式は、下記の通りです。

・生産性低下割合 = 1 – 仕事の量(0-10) × 仕事の質(0-10) /100
・生産性損失額/年 = USD 31.1483(=3,300円) × 8 時間 × 生産性低下割合 × 有症状日数/3ヵ月 *4 (1年間に換算)

各業務パフォーマンス指標を取り扱う際の留意点

ポケットセラピストの生産性向上効果

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これまで健康経営実践企業で主に利用されている測定方法の概要について説明をしてきました。質問項目と回答項目を知っていれば、それで完璧かというと、その得点の解釈の仕方や目標設定の仕方などについてもいくつか留意点があります。ここでは、プレゼンティーズムの可視化と施策への応用時にぶつかりやすい壁について説明をします。

「プレゼンティーズム」解消の目標設定

プレゼンティーズムなどの業務パフォーマンス指標は、健康経営のモノサシとして、健康経営の中期計画などで利用されます。ここでイメージをしてください。貴社の健康経営のモノサシとして、WHO-HPQの相対的プレゼンティーズムを利用することに方針が決まり、可視化した結果、相対的プレゼンティーズムが「0.6」という結果が出ました。役員から「健康経営の中期計画や統合報告書にプレゼンティーズムの目標値を記載したいから適切な目標設定をして提出するように」と言われた場合、あなたであればどうするでしょうか。

健康経営の現場にいると、上記のような大きな課題の壁にぶつかることが度々あります。そして、利用するプレゼンティーズムの指標により、その適切な解は異なります。

今回のWHO-HPQの場合は、先行研究において、相対的プレゼンティーズムは「0.8」をカットオフ値にすることで、メンタル不調等による欠勤などに関連することが報告されているため、根拠に基づいた一つの適切な設定と言えます(PMID:25340520)。もちろん個社ごとにデータは異なる可能性があるので、一度設定した後も、PDCAを回し続けることが最重要と言えます。

「プレゼンティーズム」の要因分析時の注意点

疾患非特異的尺度でプレゼンティーズムを可視化した場合、施策を検討・決定する上で、エクセルなどを利用しながら、「プレゼンティーズムデータ(WHO-HPQ)」と「BMI」など、さまざまな指標と相関分析を行い、プレゼンティーズムと関連性が認められた項目に関して、課題の優先度づけを行い、目標設定をして、施策のPDCAを回し始めることが少なくありません。

相関分析は簡単に誰でもできて、解釈も容易であるというメリットはあるものの、一定の統計学の知識やスキルを有していないと、その解釈を間違えてしまうリスクがあります。

あくまでいち事例ですが、例えば、「プレゼンティーズム」と「歩数」の相関係数がr = 0.8であった場合、正の強い相関関係があったので、歩数を増やすと生産性が上がると考え、ウォーキングイベントに予算を割くという意思決定をした場合、実は、30代以下と40代以上という全く無相関な母集団があり、相関しているように見えてしまっただけということも多々ありますので(疑似相関といいます)、散布図を書き出すなどの一定の手続きを踏むことが、正しいプレゼンティーズムの解釈と、健康経営施策の検討・決定には必要です。

健康経営の投資対効果の計算方法と留意点

当社が開発・運営しているポケットセラピストでは、プレゼンティーズムの解消効果(健保様の契約の場合は、医療費の適正化効果を含めて)や投資対効果を上記のように示しています。

プレゼンティーズム指標を利用した労働損失時間や経済損失額の計算式に関しては、Brooksらがそれぞれの指標ごとに報告をしていますが、指標ごとに計算方法が異なるために注意が必要です(PMID:21063183)。

さらに、健康経営施策などの介入効果を検証する際の留意点として、対象者の設定・募集について注意が必要です。施策前(ベースライン時)に、労働生産性低下を経験していない従業員を効果検証したい施策の対象に含んでしまうと、当然ながら、施策による投資対効果は検証できません。健康経営施策によって、プレゼンティーズムが解消するという期待仮説を検証するためには、ベースライン時において、労働生産性低下を経験している従業員を対象として設定・募集する必要がありますので、ご留意ください。

「プレゼンティーズム」を基にしたPDCAと情報開示

プレゼンティーズム等の業務パフォーマンスは単年度で可視化するのみではなく、どのような施策が生産性向上に貢献するかというPDCAを繰り返しながら、経年変化も可視化し、そのデータを対外的に情報開示していく必要があります(参照記事:2023年度の健康経営顕彰制度の3つの主な変更/検討点について解説します。)。

健康経営における機関投資家の開示ニーズ

【出典】健康・医療新産業協議会 第6回健康投資WG資料より.

しかし、現状としては、プレゼンティーズム・アブセンティーズムを可視化しているものの対外的に公表していないという企業は一定数存在することがわかっています。情報開示に踏み切れない理由は、企業により様々ですが、機関投資家の開示ニーズがあることは明らかなので、例えば女性の管理職比率を記載するかのように、数年後には当たり前にアブセンティーズムやプレゼンティーズムデータが開示されるような社会の流れになっていくことが容易に想像できます(参照記事:健康経営優良法人認定制度(大規模法人部門)の要点とSDGs・ESG)。

プレゼンティーズム指標を基にしたPDCAの回し方の具体的な内容に関しては、筆者が執筆したnoteをぜひご参照ください(参照記事:月◯万円生産性が向上!?プレゼンティーイズム対策のPDCAノウハウを公開!)。

まとめ:プレゼンティーズムの可視化とPDCAを

健康経営は、経営戦略の一環であり、単なるセミナーなどのイベントに費用を割くのは、健康経営とは言えません。プレゼンティーズム等の業務パフォーマンスの指標を用いることで、健康経営のモノサシを作り、ヒト・モノ・カネ・情報と言われる会社の4大経営資源の選択と集中を実現することで、本質的な健康経営の実践が可能となります。

すでにご理解いただいたように、プレゼンティーズムは可視化して終わりではなく、可視化してからが健康経営のスタートです。健康経営の施策の投資対効果を高めるための指標がプレゼンティーズムになりますので、まずは可視化し、改善のPDCAを小さく高速で回していくことで、投資対効果の高い健康経営が実現できます。

プレゼンティーズムの可視化や取得済みのプレゼンティーズムデータの統計解析にお困りの場合は、お気軽に下記より、お問合せください。

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