職場におけるエルゴノミクスの重要性とは?【企業への影響と改善によるメリットを解説】
エルゴノミクス(人間工学)は、人々の安全、健康、快適性、そして生産性を向上させるために、仕事、製品、システムを人間に適合させる科学です。特に現代のオフィス環境において、長時間労働やデスクワークが主流となる中で、その重要性はますます高まっています。
本記事では、エルゴノミクスがなぜ重要なのか、そして職場環境の改善によって具体的にどのようなメリットが得られるのかを解説します。
目次
エルゴノミクスとは?
エルゴノミクス(Ergonomics)は「人がより自然に、無理なく、効率的に作業できるように設計する」ための学問です。
具体的には、デスク、椅子、キーボード、モニターといった物理的なオフィス家具や機器の設計から、作業プロセス、照明、温度、さらにはソフトウェアのインターフェースに至るまで、人間にとって最適となるように環境を整えることを目指します。
エルゴノミクス問題の放置することの影響
エルゴノミクス上の問題を放置することは、従業員と企業の双方に大きな悪影響を及ぼします。
従業員への影響
従業員への影響としては、慢性的な痛みや疲労の蓄積による健康障害が挙げられます。腰痛や頸肩腕の痛みは労働者の生活の質(QOL)を低下させるだけでなく、重症化すれば労働不能や離職につながる恐れもあります。実際に腰痛は世界的に見て労働者の障害年の主因の一つであり、勤労者の労働能力喪失につながる代表的疾患です [1]。
企業への影響
企業への影響としては、まず労働災害や健康障害による欠勤(日数)や休業補償コストの増大が挙げられます。筋骨格系の不調は一時的な治療では再発しやすく、長期病休や頻繁な欠勤につながるケースもあります [1]。特に製造業や運輸業での腰痛や肩障害による休業は、代替要員の確保や人件費増加といった間接コストも招きます。

さらに、腰痛・肩こりはプレゼンティーズムを招く主要因と言われており、企業の生産性に大きな影響を与えています[2]。プレゼンティーズム状態は、欠勤や休業補償のコストと違って表出しにくい一方で、企業に大きな影響を与えています。
エルゴノミクス課題を検知する3つの方法
職場のエルゴノミクス上の課題を適切に把握することは、効果的な対策を講じる第一歩です。主な検知方法として、以下のようなアプローチがあります。
作業現場のリスクアセスメント
人間工学の分野では、RULA (Rapid Upper Limb Assessment) や REBA (Rapid Entire Body Assessment)、OWAS (Ovako作業姿勢解析) などの国際的に確立された評価手法があり、これらを用いることで作業姿勢や動作のリスク度合いを数値化できます。
RULAは特別な機器を必要とせず、首・体幹・上肢の姿勢や筋緊張、外力を評価してリスクレベルを判定できる手法で、VDT作業における欧州指令や英国のガイドラインでも推奨されています [3]。自社に専門知識がない場合でも、産業保健師や作業療法士、外部の人間工学コンサルタント等に依頼し、職場のエルゴノミクス診断を受けることが有効です。
従業員へのサーベイ(アンケート)や⭐️ストレスチェックの活用⭐️
現場で働く従業員自身に身体的な不調や負担を感じる作業を尋ねることも重要です。例えば、「一日の作業の中で痛みや疲労を感じる瞬間はいつか」「職場の設備や道具で使いにくいものはあるか」などの問いを設けたアンケートを実施します。従業員の主観的な訴えを収集することで、数値には表れにくい細かな不快要因を把握できます。

また、50名以上の事業所で年1回実施しているストレスチェックでは、身体愁訴についての設問があります。ストレスチェックのデータを活用することで追加でコストをかけずに、身体のどの部位にどれくらいの頻度で不調があるかを集計することが可能です。
新しくサーベイを導入したり、アンケート準備の工数を確保することが難しい場合は、ストレスチェックデータの活用をお勧めします。
作業環境のデジタルモニタリング
ICTを活用した客観的なデータ計測も近年注目されています。例えば、センサーやIoTデバイスを用いて姿勢や動作を定量的に測定する方法があります。椅子に取り付けた圧力センサーで着座姿勢の崩れを検知したり、ウェアラブルデバイスで作業者の動きを追跡して不自然なひねりや屈み動作の頻度を記録したりすることが可能です。また、パソコン作業ではキーボードやマウスの操作ログから連続作業時間を把握し、休憩が取られていない場合にアラートを出すソフトウェアも市販されています。
これらデジタルツールにより、人手では見逃しがちなミクロな負荷を可視化でき、エルゴノミクス上の課題の早期発見につながります。
取り入れやすいエルゴノミクス改善の3つの方法
エルゴノミクス上の課題が明らかになったら、企業は計画的に対策を講じていく必要があります。対策は組織的な取り組みと物理的・技術的な取り組みの両面から進めることが重要です。以下に具体的な施策例を挙げます。
作業ガイドラインの策定
厚生労働省は早くから「VDT作業(ディスプレイを用いた作業)の作業ガイドライン」や「職場における腰痛予防対策指針」などを策定し、労働者の姿勢や作業環境への配慮を呼びかけてきました [4]。
社内ルールとしても、作業時間と休憩のガイドラインを整備することは効果的です。VDT作業であれば「1時間作業ごとに5〜10分の小休止を取る」ことを推奨・徹底したり、長時間同一姿勢が避けられないドライバーには「2時間ごとに必ず休憩しストレッチを行う」スケジュールを組むなど、制度面の整備によってエルゴノミクスへの意識付けを行いましょう。
物理的な作業環境・設備の改善
エルゴノミクス対策でもっとも即効性があるのが、ハード面の改善です。オフィスであれば、長時間座っても疲れにくい人間工学設計の椅子(腰部をサポートするランバーサポート付きチェアや肘掛けの高さ調節可能なチェア)を導入します。デスクも高さ調節のできるものを採用し、個々の身長にあった姿勢で作業できるようにします。
また、近年普及している昇降デスク(座位と立位を交互にとれるデスク)は、座りっぱなしによる血行不良や腰への負担軽減に効果的です。立ち作業が中心の現場では、作業台の高さを適切に調整し、必要に応じて足元に疲労軽減マットを敷くことも有効です。さらに、重量物の運搬には台車や昇降機器の活用を徹底し、「人力で持ち上げない」環境づくりをします。
⭐️デスク環境や腰痛対策をテーマにした従業員教育⭐️
従業員一人ひとりがエルゴノミクスを意識し、作業姿勢やデスク周辺環境を整えることも非常に重要です。

例えばデスク環境セミナーでは、最適なモニターの角度や昇降デスク/チェアの高さについて学ぶことができるので、会社が介入しにくい自宅環境の改善に繋がります。
理学療法士や作業療法士などの専門資格を持った医療職から、腰痛予防体操やストレッチの指導を行っていただくのも良いでしょう。従業員自身が「今、自分は悪い姿勢になっていないか?」と日々意識しセルフケアするようになれば、自然と職場全体のエルゴノミクスは向上していきます。
まとめ:エルゴノミクスによる企業への大きなメリット
エルゴノミクスを取り入れた職場環境の整備は「従業員にとっての健康増進」と「企業にとっての生産性向上・コスト削減」の双方に大きなメリットをもたらします。
適切な対策により労働者の腰痛や肩こりといった不調が軽減すれば、従業員は快適に働き続けることができ、その結果として欠勤や休業補償コスト、労働生産性損失の低減にもつながります。
ポケットセラピストは、肩こり・腰痛・眼精疲労などの慢性的な身体の痛みのお悩みを、理学療法士・作業療法士などの専門の医療職に365日相談することができます。社内環境の整備や、こうしたサービスを導入して、今できる取り組みから始めていきましょう。

引用・注釈
[1] Russo F, et al. The Effects of Workplace Interventions on Low Back Pain in Workers: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2021;10(23):5603. PMID:34886343
[2] Nagata T, et al. Total Health-Related Costs Due to Absenteeism, Presenteeism, and Medical and Pharmaceutical Expenses in Japanese Employers. J Occup Environ Med. 2018.
[3] McAtamney L, Corlett EN. RULA: A survey method for the investigation of work-related upper limb disorders. Appl Ergon. 1993;24(2):91-9. PMID:15676903
[4] 厚生労働省. 「職場での腰痛を予防しましょう!」リーフレット. 2013年改訂版.https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/131114-01.pdf



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