【これを読めばわかる】「職場における熱中症防止ガイドライン」解説-企業担当者が今すぐ対応すべき5つの対策
厚生労働省によると、2025年の職場での熱中症による死傷者数は1,681人と過去最多を記録しました[1]。年々増加する熱中症災害の状況を受け、厚生労働省は2026年3月に「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を策定しました[2]。
今回の策定は、令和7年法律第33号による労働安全衛生法の一部改正に対応したものです。企業に求められる対応の範囲と具体性が大きく強化されました。
この記事では、本ガイドラインの概要と、人事・労務担当者がいますぐ完了しておくべき具体的な対応をまとめます。
今回のガイドライン策定のポイントは?
本ガイドラインは、労働安全衛生関係法令と組み合わせて活用することを前提として設計されています。熱中症のおそれのある全ての作業が適用対象です。建設・製造・運送・農業はもちろん、幅広い業種が対象になります。
今回の策定でのポイントは以下の3点です。
- 安衛則第612条の2に基づく**「報告・緊急対応体制の整備」が義務として明確化**された
- 単発・短期のスポットワーク労働者も適用対象として明記された
- 入職後・夏季休暇後の暑熱順化不足を見込んだ具体的な対応が追加された
熱中症リスク評価の基本:WBGT値とは
以降のセクションでは、人事・当務担当者が対応すべき項目を説明します。
その前に理解しておきたいのは、ガイドラインが対策の起点に置いているWBGT値(湿球黒球温度)の把握です。WBGTは気温だけでなく湿度・輻射熱を組み合わせた暑さ指数であり、気温だけを意識していると見落とされてしまう熱中症リスクのある状態を、数値で可視化してくれます。
測定には日本産業規格(JIS Z 8504またはJIS B 7922)に適合した指計が必要です。

防護服や不透湿つなぎ服を着用する場合は「着衣補正値」をWBGT値に加算します(例:フードなしの不透湿つなぎ服は+10℃-WBGT)。
💡人事・労務担当者がいますぐ対応すべきこと5つ
対応1:労働衛生管理体制の確立
まず手をつけるべきは、担当者を決めて責任の所在を明確にすることです。
産業医の意見も参考にしながら、衛生管理者(50人未満の事業場では安全衛生推進者又は衛生推進者)を中心に体制を整え、対策を検討・実施させます。 なお、職長など衛生管理者や安全衛生推進者等「以外」の者に現場の予防対策を行わせる場合には、教育研修を受けた者など必要な知識を持つ者の中から「熱中症予防管理者」を選任します。
衛生管理者等(または選任された熱中症予防管理者)が担う業務は以下のとおりです
- 作業ごとのWBGT基準値・着衣補正値の確認
- WBGT値低減対策の立案と実施状況の確認
- 入職日・作業・休暇状況をもとにした暑熱順化の確認
- 朝礼時等における作業従事者の体調確認
- 作業場所のWBGT値の随時把握と評価
- 職場巡視による水分・塩分摂取状況の確認
- 退勤後の体調悪化への注意喚起
- 労働衛生教育の実施状況の確認
また、WBGT値28℃以上または気温31℃以上の場所で継続1時間以上または1日4時間を超える作業(「熱中症を生ずるおそれのある作業」)については、安衛則第612条の2に基づき、報告体制と緊急対応手順の整備・周知が義務です。
対応2:作業環境管理(設備・環境の整備)
体制が整ったら、次は作業環境そのものに手を入れます。WBGT値を下げるには、発熱体と作業者の間に遮へい物を置く、屋外では直射日光や地面からの輻射熱を遮る屋根・日よけを設置する、通風・冷房設備やミストシャワーを整備する、といった対応が挙げられます。
休憩場所の整備も必須です。冷房を備え、足を伸ばして横になれる広さを確保すること。さらに以下を備えておく必要があります。
- アイススラリー(流動性の氷状飲料)・冷たいおしぼり・水風呂・シャワー等
- 飲料水・スポーツドリンク・経口補水液・塩飴等
多量の発汗を伴う作業場では、飲料水・塩分の備え付け自体が安衛則第617条により義務です。「熱中症対策として用意した」ではなく、そもそも法令上の義務として捉える必要があります。
対応3:作業管理(熱負荷の低減)
環境を整えても、作業の進め方次第で熱中症リスクは変わります。
休憩時間の目安
WBGT値が基準値を超え、かつ特段の身体冷却措置(ファン付き作業服など)をしていない場合、1時間あたりの休憩時間の目安は以下の通りです。

※新規入職者や休暇明けなど「暑熱順化していない作業者」には、上記よりもさらに長い休憩が必要です。
暑熱順化プログラムの実施
暑熱順化とは、暑熱環境に身体を慣らす適応過程のことです。ガイドラインは7日以上かけて身体的負荷を徐々に増やすプログラムの実施を定めています。
見落としがちなのが、熱への暴露が4日以上途絶えると順化の顕著な喪失が始まり、3〜4週間で完全に失われるという事実です。夏季休暇明けの従業員は、ほぼ「順化していない状態」として扱うのが妥当です。新規入職者やスポットワーク従事者も同様です。
近年は5月から気温が上がるケースも増えており、GW明けや梅雨明けも同様のリスクがある点に注意が必要です。
水分・塩分摂取の目安
- 0.1~0.2%の食塩水またはナトリウム40~80mg/100mlのスポーツドリンク
- 20~30分ごとにカップ1~2杯程度
自覚症状がなくても脱水は進行します。担当者が摂取状況を定期的に確認する仕組みが必要です。
対応4:健康管理(個人差への対応)

熱中症の発症リスクには個人差があり、特定の疾患を持つ従業員への配慮は努力義務ではありません。
熱中症リスクを高める疾患
以下の疾患を持つ従業員については、高温多湿作業場での作業可否を産業医・主治医に確認し、就業場所変更・作業転換等の措置を講ずる義務があります(安衛法第66条の4・5)。
- 糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全、精神・神経関係の疾患、広範囲の皮膚疾患、感冒等、下痢等
健康診断の結果を熱中症対策に反映できているか、改めて確認しましょう。
毎日の体調確認
作業開始前(朝礼時等)に確認すべきは、睡眠不足・前日の多量飲酒・朝食未摂取・体調不良感の有無です。入職後1週間未満の従業員や、夏季休暇後4日以上経過した従業員は、特に巡視頻度を増やす必要があります。
対応5:労働衛生教育(知識の定着)
体制・環境・作業管理・健康管理を整えても、現場の人間が熱中症を「自分ごと」として理解していなければ機能しません。
ガイドラインが定める教育時間:熱中症予防管理者向け計225分、職長等向け計60分、作業従事者向けは短時間で繰り返し実施。教材は厚生労働省のポータルサイトで公開されています。
⚠️ 緊急時の対応:「大丈夫」と言われてもためらわない
熱中症を疑わせる症状(ふらつき・発汗・けいれん・めまい・頭痛等)が出たら、まず作業を止めて涼しい場所へ移動させます。アイスバス・ミストファン・濡れタオル等で身体を冷やしながら、水分と塩分を補給します。
本人が「大丈夫」と言っても、あらかじめ定めた担当者へ連絡し、#7119等を活用して専門機関に判断を委ねることが重要です。「大丈夫そうだから様子を見よう」で容態が急変するケースがあります。
「一人にしないこと」 −これだけは徹底してください。
✅ 担当者が今すぐ確認すべき対応チェックリスト
ガイドラインはおおむね4月中に夏季対策の準備を完了させることを求めています。まだ手がついていない項目がないか、確認してみてください。

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まとめ
「職場における熱中症防止のためのガイドライン」は、努力目標の羅列ではありません。報告体制の整備や健康診断後の措置など、法令上の義務と紐づいた対応が各所に含まれています。
毎年「例年通り」で乗り切ってきた企業ほど、今回の策定で対応漏れが出る可能性が高まります。5本柱(体制・環境・作業・健康管理・教育)を一度ゼロから棚卸しするつもりで、4月中に動き出してください。
貴社の熱中症対策の抜け漏れを、産業保健の専門家と一緒に確認してみませんか。まずはお気軽にご相談ください。
引用
[1] 厚生労働省「令和7年『職場における熱中症による死傷災害の発生状況』(令和7年12月末速報値)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001662461.pdf
[2] 厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/content/001676299.pdf


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