企業が注目すべきPOS(知覚された組織的支援)とは?【ウェルビーイングとの関係】
近年、企業の人事・労務・総務担当者にとって、従業員のメンタルヘルスや離職率の増加が大きな課題となっています。厚生労働省が公表した令和2年の「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活に強い不安やストレスを感じる労働者の割合は54.2%にも上り[1]、メンタルヘルスの悪化や職場への不満が離職へとつながるケースも少なくありません。
こうした状況を打開するうえで注目されているのが、POS(Perceived Organizational Support:知覚された組織的支援)です。POSとは、従業員が「自分は会社からどれだけ大切にされているか、どの程度サポートされているか」をどのように感じるかを示す概念です。従業員が十分な組織的支援を感じられるほど、健康経営の推進や離職率の低下に良い効果をもたらすことがわかっています。
本記事では、POSの基礎や企業への影響、そして具体的な導入施策をヘルスケアの観点で詳しく解説し、組織の健康経営や人材定着に役立つヒントを提供します。特に「会社が自分を大切にしてくれている」と社員が実感できる取り組みを強化することで、従業員のウェルビーイングと企業のパフォーマンスをともに高める方法を紹介します。
目次
POS(知覚された組織的支援)とは?
POSの定義と基礎知識
POS(知覚された組織的支援)とは、従業員が「会社(組織)が自分の貢献や幸福をどれだけ重視し、配慮してくれているか」と認識する度合いを指します[2]。具体的には、賃金や福利厚生などの物理的サポートだけでなく、上司や同僚からの励ましや公平な評価といった精神的サポートも含まれます。POSの概念は、アメリカの心理学者らが提唱した組織支援理論(Organizational Support Theory)に基づいており、従業員が組織に対して愛着や信頼を抱くメカニズムを説明するうえで重要な指標とされています[3]。
企業で注目される背景
離職率増加や生産性低下など、人事・労務部門が抱える課題の裏には、従業員が「会社が自分をどこまで大切にしてくれるのか」を十分に実感できていない現状があると指摘されています。POSが低いまま放置されると、社員のモチベーション低下やメンタルヘルス不調を引き起こし、結果的に離職率が高まる可能性が高いのです。
反対に、POSが高いと従業員は「会社に貢献したい」「周囲をサポートしたい」という気持ちが自然に高まり、業務パフォーマンスやエンゲージメントが向上するとされます[2]。こうした組織の状態は、従業員のウェルビーイング向上と連動することから、健康経営や働き方改革を推進する企業がこぞってPOSに注目しているのです。
POSが企業に与える影響
POSが高い企業と低い企業の違い
POSが高い企業では、従業員が「会社は自分の存在や貢献を評価し、配慮してくれている」と感じるため、次のようなポジティブな影響が見られます[2][3]。
- 離職率の低下:会社への愛着が高まることで、従業員が長期的に働き続ける意欲を持ちやすくなる
- 生産性向上:従業員が高いモチベーションと心理的安全性を得て、業務に集中しやすくなる
- エンゲージメント向上:組織に対する信頼や共感が深まり、組織市民行動(自主的なサポート行動)が促進される
- メンタルヘルスの改善:サポートを実感している従業員はストレスを抱え込みにくく、バーンアウトリスクが低減する
一方、POSが低い企業は、「会社は自分のことをあまり気にかけていない」と従業員が認識しやすく、以下のような問題が生じる傾向にあります[2][3]。
- 離職率の上昇:サポートが得られない環境では、能力を発揮しづらく退職を選ぶ従業員が増加
- モチベーション低下:不満や不安を抱えながら働くため、業務効率が落ちる
- ネガティブな職場風土の固定化:相互不信が強まることで、さらに従業員が会社からの支援を感じにくくなる悪循環が生まれる
POSの低下が従業員の健康に与える影響
POSが低いと、従業員のメンタルヘルス不調が進みやすくなると指摘されています[3]。特に、ストレスやバーンアウト(燃え尽き症候群)は離職要因の一つとして危険視されており、休職や退職を招けば企業にとっても大きな損失となります。厚生労働省は2015年からストレスチェック制度を義務化し、従業員のメンタルヘルス管理を促進していますが[4]、その背景にも「従業員にとって働きやすい環境づくり」が必要不可欠であるという認識があります。POSを高めて組織のサポート体制を整えれば、従業員が不調を感じた際にも早期にケアを受けやすくなるなど、健康面でもメリットが大きいのです。

POSを向上させるための8つの企業施策
ここからは、実際に企業がPOSを高めるうえで効果的とされる具体的なアプローチを紹介します。
社内制度
- 健康経営宣言の発信
経営層が従業員の健康や働きがいを重視する姿勢を対外的に明示する取り組みです。トップが「従業員の心身の健康を第一に考える」と宣言することで、「会社は本気で社員を支援する」というメッセージが社内に行き渡りやすくなります。 - メンタルヘルス対策の強化
ストレスチェックの結果を踏まえた職場改善や、産業医・カウンセラーによるフォローアップ面談の実施など、専門家と連携しながら社員をケアする体制を整えましょう[4]。ここで重要なのは、従業員が「会社は自分の健康を守ろうとしてくれている」と実感できる運用にすることです。 - 公正な評価制度の構築
POS向上には、「正当に評価されている」という実感が欠かせません。部署ごとに差が出ない透明性の高い評価制度や、客観的な目標管理制度を導入し、公平感を担保することが大切です。
研修
- 管理職研修(サポーティブ・リーダーシップ)
POSの要として注目されるのが、上司からの支援です[3]。管理職向けに「部下の話を聴き、相談に乗る方法」「部下の達成を適切に評価し、承認する方法」を学ばせる研修を実施しましょう。1on1ミーティングやコーチングスキルが身につけば、部下に対する支援が充実し、POSの向上につながります。 - 心理的安全性の醸成
チームでのコミュニケーションがスムーズになるよう、心理的安全性を高める研修を提供します。部下が質問や提案をしやすい雰囲気を作る方法や、意見の違いを尊重するリーダーシップを学ばせ、互いにサポートし合う企業文化を育てましょう。
福利厚生
- カウンセリングサービス・EAP(従業員支援プログラム)の導入
従業員がいつでも専門家に相談できる体制を整えれば、心の不調や仕事上の悩みを早期に解消しやすくなります。外部のカウンセラーや医療機関と提携したEAPを利用する企業が増えており、従業員が「自分の問題に組織が真剣に向き合ってくれる」と感じられるためPOSの向上に貢献します。 - ヘルスケアアプリや運動施策の活用
ウェアラブルデバイスや運動促進アプリを社員に貸与・補助する企業も増えています。フィットネスに取り組むことができる動画を掲載するアプリや、ウォーキングアプリの導入、歩数競争イベントやジム利用補助など、健康づくりを楽しみながら続けられる仕組みを導入すると良いでしょう。 - 社員食堂・休憩スペースの充実
栄養バランスの良い食事を提供する社員食堂や、リラックスして過ごせる休憩スペースは、身体面の健康と精神面の安心感を同時にサポートできます。普段から会社が「従業員の健康を大事にしている」というメッセージを伝える効果もあります。
POSが高い従業員ほど仕事満足度や組織に対するコミットメントが強く、離職意思が低いことが複数の研究で示されています[2][3]。特に、POSの代表的研究者であるEisenbergerらの分析では、組織からの十分な支援を感じている従業員は感じていない従業員に比べて離職率が有意に低下するだけでなく、自己啓発や社内コミュニケーションへの積極参加などの行動変化が見られるとも報告されています[2]。
さらに、厚生労働省のストレスチェック制度では、高ストレスと判定された労働者への早期対応が重要とされています。こうした公的制度と組織的支援の取り組みを組み合わせることで、従業員が「常に会社が自分の健康状態を気にかけてくれている」と感じやすくなり、実際に心身の健康が改善した事例も多く報告されています。結果的に休職率や離職率の低下、職場の生産性向上が期待できるでしょう。
POSを高めて、従業員が健康的で安心して働ける職場づくり
POS(知覚された組織的支援)とは、従業員が会社からどれほど大切にされ、サポートを受けていると感じるかを示す重要な概念です。POSが高まれば、従業員のメンタルヘルスやエンゲージメントが向上し、離職率の低減や業務パフォーマンスの改善といった効果が期待できます。一方、POSが低いままだと、ストレスや不満が慢性化し、人材が流出するリスクが高まります。
企業担当者がすぐにできる実践策としては、以下の点を意識してください。
- 経営層のコミットメントを明示する:健康経営宣言やトップからのメッセージを通じて、従業員が「自分たちを大切にしてくれている」と感じやすい風土を作る
- 管理職の研修を充実させる:上司が部下をサポートする意識を高め、具体的な支援スキル(1on1やコーチング)を習得させる
- 福利厚生やメンタルヘルス対策を拡充する:カウンセリングやストレスチェックを定期的に行い、困ったときに助けてもらえる仕組みを周知徹底する
- 公正な評価制度やコミュニケーション施策の見直し:社員が納得しやすい制度設計と、意見交換しやすい社内文化を整備する
これらを組み合わせて「会社からのサポート」をわかりやすく具体化することで、従業員が安心して働ける職場環境が生まれます。それは健康経営の実現だけでなく、優秀な人材の長期定着や企業イメージの向上にも結びつくでしょう。まずは現状のPOSを測り、改善の優先順位を明確にしながら、できる施策から始めてみてください。
引用・注釈
[1] 厚生労働省:令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r02-46-50b.html
[2] Eisenberger R, Huntington R, Hutchison S, Sowa D. Perceived Organizational Support. J Appl Psychol. 1986;71(3):500-507. https://psycnet.apa.org/record/1986-31507-001
[3] Rhoades L, Eisenberger R. Perceived organizational support: A review of the literature. J Appl Psychol. 2002;87(4):698-714. PMID: 12184574
[4] 厚生労働省:ストレスチェック制度について
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html




