最新の概念【人事・産業保健職必見】”プレ・プレゼンティーズム(Pre-presenteeism)とは?プレゼンティーズムの前兆を解説!
従業員が出勤しているものの、病気や不調によって本来のパフォーマンスを発揮できていない状態を指す「プレゼンティーズム」。欠勤に至る「アブセンティーズム」とは異なり、表面化しづらい分、企業にとっては“見えない損失”となります。近年、このプレゼンティーズムによる生産性低下が企業に大きなコストをもたらすことが明らかになり、人事や産業保健担当者にとって重要な課題となっています。
さらに、その前段階(プレ・プレゼンティーズム)に注目し早期対策を講じる動きも出てきました。
本記事では、プレゼンティーズムおよび“プレ・プレゼンティーズム”の概念と影響、そして企業が取るべき実践策について、最新エビデンスに基づきわかりやすく解説します。
プレゼンティーズムとは?
まず、プレゼンティーズム(Presenteeism)とは何かを整理しましょう。厚生労働省の定義によれば、プレゼンティーズムは「従業員が職場に出勤しているものの、何らかの健康上の問題により業務の能率が低下している状態」を指します[1]。もともとWHO(世界保健機関)が提唱した概念であり、日本語では「疾病就業」とも訳されます。例えば、頭痛や腰痛、ストレスによる集中力低下などで仕事のパフォーマンスが落ちている状態が該当します。対照的に、病気やケガで欠勤している状態は「アブセンティーイズム(Absenteeism)」と呼ばれます。プレゼンティーズムは勤怠記録上は出勤しているため見逃されがちですが、実は企業にとって深刻な影響を及ぼします。
プレゼンティーズムが発生する原因
プレゼンティーズムを引き起こす原因は多岐にわたります。メンタルヘルス不調(うつ病や不安障害など)は代表的な要因ですが、それ以外にもアレルギー疾患(花粉症等)や偏頭痛、生活習慣病(糖尿病・高血圧など)によって生産性が低下することが明らかになっています[1]。実際、日本の大規模調査研究では、メンタルヘルス不調や運動器系の症状(首・肩こりや腰痛など)が職場でのプレゼンティーズムの主要因であり、それによる生産性損失の経済的負担が非常に大きいと報告されています[2]。つまり、身体的な痛みから心理的ストレスまで、様々な健康問題がプレゼンティーズムにつながり得るのです。
“プレ・プレゼンティーズム”とは?(前兆の定義や兆候)
プレ・プレゼンティーズム(Pre-presenteeism)とは、プレゼンティーズムの“前兆”にあたる状態を指す新しい概念です。簡潔に言えば、「健康上の問題は抱えているが、現時点では仕事のパフォーマンスに明確な低下が生じていない状態」がプレ・プレゼンティーズムと定義されます[3]。言い換えれば、従業員が何らかの不調・症状を感じつつも、まだ業務成績や生産性には影響が出ていない段階です。一見すると問題なく働けているように見えるため見過ごされやすいですが、この段階を放置するとやがて本格的なプレゼンティーズム(生産性低下)に移行するリスクがあります。
プレ・プレゼンティーズムの概念はごく最近注目され始めたもので、2024年の日本の研究で世界で初めて明確に定義されました。同研究では、中小企業で働く554人を対象に過去1ヶ月の健康問題の有無と仕事への影響を調査し、「症状なし」「プレ・プレゼンティーズム(不調はあるが仕事への影響なし)」「プレゼンティーズム(不調があり仕事に影響あり)」の3群に分類しました。その結果、対象者の30.1%がプレ・プレゼンティーズム群、52.0%がプレゼンティーズム群に分類されました[3]。約3割もの従業員が“不調を抱えつつも何とか働けている”状態にあることを示しており、決して無視できない割合です。
さらに興味深いのは、プレ・プレゼンティーズム群の従業員の特徴です。同研究によると、プレ・プレゼンティーズムの段階にある人たちは既にストレス反応が高く、職場や家庭で得られる社会的支援が乏しい傾向が確認されました。これは実際に生産性低下が起きているプレゼンティーズム群と共通する特徴です。一方で、仕事上の強いストレス要因(過重な業務負荷や対人ストレス)や仕事・生活に対する満足度の低さといった要因は、プレゼンティーズム群でのみ有意に見られ、プレ・プレゼンティーズム群では顕著ではありませんでした [3]。言い換えれば、健康問題による本人のストレスサインや周囲のサポート不足はパフォーマンス低下前から現れているものの、仕事そのものの不満や強いストレスはまだ表面化していない状態といえます。
この“プレ・プレゼンティーズム”を捉えることは非常に重要です。不調を抱えつつ頑張っている従業員の存在を早期に把握し、適切なケアや支援につなげることで、後述する深刻なプレゼンティーズム(生産性低下)への移行を防ぐことができるからです。同研究の著者らも、プレ・プレゼンティーズムの段階で対策を講じることがプレゼンティーズム予防の鍵になると指摘しています。
“プレ・プレゼンティーズム”を意識する重要性
「健康経営」という言葉が示すように、従業員の健康増進と企業の業績向上は表裏一体です。プレゼンティーズム対策は健康経営の重要な柱であり、さらにその前段階であるプレ・プレゼンティーズムに着目することは、真に先手を打った健康管理と言えます。前述のように、不調を抱えたまま働く状態を放置すれば、やがて生産性の低下や休職・離職につながりかねません。実際、プレゼンティーズム状態が続いた従業員は、仕事へのエンゲージメント低下や燃え尽きによって将来的に休職や早期退職に至るリスクも考えられます 。企業にとって、人材の損失や代替要員の採用育成コストも発生するため、問題が顕在化してから対応するのでは手遅れになる場合があります。
一方で、プレ・プレゼンティーズムの段階で早期に手を打てば、従業員は深刻な状態に陥る前にケアを受けられ、結果的に仕事を続けながら健康を回復しやすくなります。これは従業員本人のQOL(生活の質)向上につながるだけでなく、企業にとっても将来的な生産性損失や人材流出を防ぐことにつながります。つまり、プレ・プレゼンティーズムの段階で従業員の不調に気付き、支援することは、従業員と企業の双方にとってメリットが大きい「先行投資」なのです。
健康経営を推進する企業では、このような観点からプレゼンティーズムとその前兆を重要視しはじめています。従業員の健康課題を早期に可視化し対処することは、職場全体の活力向上と組織の持続的成長につながるでしょう。
まとめ
プレゼンティーズムは、企業の生産性を陰ながらむしばむ重大な課題であり、その前兆となるプレ・プレゼンティーズムを見逃さず対策することがこれまで以上に重要になっています。プレ・プレゼンティーズムとは、健康問題を抱えつつも業務上は一見支障が出ていない段階のことで、この段階でのケアが将来的な生産性低下を防ぐ鍵となります。
ストレスチェックや各種サーベイによる不調者の検知・把握、医療専門職による面談や不調改善までの継続的な支援により、プレ・プレゼンティーズムを早期検知・改善に繋げることができます。また、第三者である医療職へ相談ができることや、身体の痛み・悩みをきっかけに相談ができるため、本格的な不調になる前に手を差し伸べることができます。
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今回はプレ・プレゼンティーズムに関する簡単な解説をご紹介しましたが、今後、具体的な対策方法なども随時公開していきます!
引用・注釈
[1] 厚生労働省『コラボヘルスガイドライン』(2017年)https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000171483.pdf
[2] Yoshimoto T, Oka H, Fujii T, Nagata T, Matsudaira K. “The Economic Burden of Lost Productivity due to Presenteeism Caused by Health Conditions Among Workers in Japan.” J Occup Environ Med. 2020;62(10):883-888. PMID: 32826548
[3] Daijo Shiratsuchi, Atsushi Motohiro, Kenta Okuyama, Takafumi Abe. ”Relationship between occupational stress and presenteeism status among workers in small and medium-sized enterprises”. Arch Environ Occup Health. 2024;79(2):83-90. PMID:38829113


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