【女性の健康とプレゼンティーズム】企業が知るべき影響とは?

日本の労働人口に占める女性の割合は年々増加しており、就業者の約半数(45.2%)を女性が占めるとされています[1]。しかし、多くの働く女性は、月経や更年期などライフステージに伴う健康課題を抱えており、それらが仕事のパフォーマンスに影響しやすいのが現状です。実際、女性特有の健康課題による労働損失は社会全体で年間約3.4兆円に上るとの試算もあり[2]、企業としても見過ごせない経営課題となっています。

一方で、社員の健康を維持・向上させる「健康経営」の重要性が高まる中、その取り組みの一つとしてプレゼンティーズム(Presenteeism)対策が注目されています。プレゼンティーズムとは、「病気や体調不良を抱えながらも出勤しており、生産性が低下している状態」を指します。本記事では、女性特有の健康課題がプレゼンティーズムに与える影響、企業が取り組むべき施策、その効果を示すデータを中心に解説します。

女性の健康課題とは?

女性は一生の中で、月経、妊娠・出産、更年期といったライフステージごとに特有の健康課題に直面します。以下では、代表的な症状や定量データを確認し、仕事への影響を考えます。

月経困難症(生理痛)

生理痛は非常に一般的な症状で、海外の大規模調査では女性の45〜95%が月経随伴症状を経験するとされています[3]。痛みが激しいほど仕事中の集中力や効率が低下し、従業員本人は無理をして出勤していても生産性が落ちている状態、すなわちプレゼンティーズムが生じやすくなります[3]。

月経前症候群(PMS)

月経の直前にイライラや気分の落ち込み、頭痛や全身のだるさが現れるPMSも、20〜40%の女性が経験すると報告されています[3]。これらの症状は業務遂行上のパフォーマンスを下げ、欠勤には至らないまでも業務効率の低下を招く一因となります。

更年期障害

40〜50代になると、女性ホルモンの減少に伴い「ほてり」や「発汗」、「不眠」、「抑うつ傾向」などの更年期症状が生じます。日本の研究では、重度の更年期症状を抱える女性はそうでない女性に比べ、プレゼンティーズムが発生するオッズ比が約12倍に上るとの報告があります[4]。同調査では、更年期症状が強い人ほど仕事中のパフォーマンスが約57%まで低下するという自己評価も得られており、中核世代の社員に深刻な影響を及ぼす可能性があることが示唆されています。

妊娠・産後の体調変化

妊娠中のつわりや倦怠感、産後うつなどのリスクも、女性の働き方に影響を与えます。日本人女性では、産後1か月の時点で約14.3%が産後うつ状態に該当するとのメタ分析結果があり[5]、これらの症状が出社後の業務パフォーマンスを著しく低下させるケースもあります。

厚生労働省の実態調査では、職場でこれら女性特有の健康課題により「困った経験」がある女性社員は全体の51.5%に上ると報告されています[6]。つまり2人に1人は健康上の不調で仕事に支障が出た経験があるということであり、企業としてはこうした問題を「個人の問題」に矮小化せず、組織的に対応していく必要があります。

プレゼンティーズムとは?

プレゼンティーズムとは、病気や不調を抱えながらも出勤しているが故に、生産性が大きく低下している状態を指します。一般的には「欠勤(アブセンティーイズム)」と比較され、企業の労務管理では、出勤しているのに十分働けていないことで発生する損失として近年注目されています。

プレゼンティーズムは数字に表れにくいため放置されがちですが、実際には企業の生産性を大きく損ねる要因です。世界保健機関(WHO)が推奨する「Health and Work Performance Questionnaire(HPQ)」などを用いることで、社員が自己申告する仕事効率低下の度合いを定量的に測定できます。こうした手法で社内のプレゼンティーズムを可視化する企業が増えつつあり、健康経営を進めるうえで重要な指標となっています。

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80%が月経中の生産性低下を経験

労働生産性の低下

女性の月経や更年期症状によるプレゼンティーズムは、企業にとって大きな経済的損失をもたらします。ある海外の調査では、回答者の80%以上が月経中に生産性低下を経験し、結果として年間平均23日もの「出勤はしているが十分に働けない日」が生じたと報告されています。一方、月経症状で実際に欠勤した日数は年間1.3日にとどまり、欠勤以上に「出勤による損失」が大きいことが分かります。[3]

経済的損失

横浜市と東京大学の共同研究では、従業員一人あたり年間約73万円ものプレゼンティーズムによる生産性損失が発生しているとの試算が示されています[7]。これは同調査で推計された欠勤(アブセンティーイズム)による損失(約3.6万円/人)を大きく上回る金額であり、プレゼンティーズムがいかに企業に影響しているかを裏付ける結果といえます。また同分析によると、健康関連コスト全体に占めるプレゼンティーズムの割合は**約80%**に上るとも報告されました[7]。

欠勤率(アブセンティーイズム)への影響

日本には生理休暇制度が法定化されているものの、実際の取得率は0.9%と極めて低いことが厚生労働省の調査で明らかになっています[8]。この背景には、「職場に迷惑をかけたくない」「周囲に理解されない」という不安から休みを申請しづらい実態があると推測されます。その結果、体調が悪くても出勤してしまい、プレゼンティーズムを助長する要因となっているのです。

企業が取り組むべき施策

女性特有の健康課題によるプレゼンティーズムを防ぐためには、以下のような施策が効果的だと考えられています。

  1. 健康診断の充実(婦人科検診の導入)
    定期健診に婦人科系検査(子宮頸がん検診、乳がん検診、貧血検査など)を組み込み、女性が不調を早期に把握できる機会を増やします。産業医や保健師による問診で、月経痛・更年期症状などのヒアリングを実施しやすくする取り組みも有効です。
  2. 研修・教育の実施
    管理職や一般従業員を対象に、月経や更年期、産後うつといった女性の健康課題を正しく理解するための研修を定期的に行います。職場全体が症状に対する正しい知識を持つことで、制度利用や相談がしやすい風土を醸成できます。
  3. ヘルスサーベイの活用(実態把握)
    WHO-HPQなどを用いた健康調査、ストレスチェックの結果分析などを通じて、プレゼンティーズムの実態を定期的に把握します。特に女性社員に対して、月経や更年期で困っている点がないかを無記名アンケートで確認するなど、データを集積することで問題を可視化できます[9]。
  4. カウンセリング窓口・相談制度の整備
    産業医や外部EAP(従業員支援プログラム)のカウンセラーに気軽に相談できる体制を整えます。更年期の症状や月経痛、不妊治療、産後の体調不良などをプライバシーを確保した環境で相談できると、早めの医療受診や適切な職務配慮につながり、プレゼンティーズムを未然に防ぎやすくなります。

女性の健康課題対策で、企業の損失を抑える

具体的にどの程度プレゼンティーズムが改善するのか、エビデンスに基づく研究をみてみましょう。

  • 更年期女性への認知行動療法(CBT)プログラム
    更年期症状を抱える女性従業員を対象に、職場やオンラインで認知行動療法のセルフヘルププログラムを提供した海外のランダム化比較試験で、介入群のプレゼンティーズム指標が有意に改善したと報告されています[10]。具体的には、更年期症状が緩和されることで仕事中のパフォーマンスが回復し、企業全体の生産性低下を抑制した事例が示されています。
  • 生理管理アプリの活用
    月経周期や症状を記録するアプリを活用し、自身の体調変化を把握することで、不調時のセルフケアや休養計画を立てやすくなります。実際、アプリ利用者は利用していない人に比べて、月経による仕事への悪影響が低いとのデータが出ており[3]、企業が従業員向けにアプリを紹介したり費用補助を行うなどの施策も注目されています。

これらの研究から、女性の健康課題に適切に対処することでプレゼンティーズムを大幅に抑制できる可能性が示唆されています。特に、早期発見・早期対処を促すような仕組み(研修・相談体制・ICT活用など)を整えれば、個々の症状が深刻化する前に支援の手を差し伸べることができ、企業としての損失を防ぐ効果が期待できます。

女性の健康課題は、"組織で解決"

女性の健康課題がプレゼンティーズムを通じて企業の生産性を低下させることは、国内外のデータからも明らかになっています。企業がこうした問題を放置すれば、目に見えないまま業務効率の損失が積み重なるだけでなく、優秀な人材が不調や離職リスクに直面し続けることになりかねません。

一方、女性特有の健康課題への対応は「費用」ではなく「投資」と考える企業が増えています。生産性の向上や医療費の抑制、従業員満足度の向上など、多面的なリターンを得られる可能性が高いからです。具体的なアクションの例としては、以下のステップを推奨します。

  1. 現状の「見える化」
    • ヘルスサーベイやストレスチェック結果などを分析し、プレゼンティーズムがどの程度発生しているかを数値化する。
    • 女性社員の中で月経困難症や更年期障害に悩む人の割合を推定し、必要な対策を洗い出す。
  2. トップのコミットメント
    • 経営層・管理職向けにデータを提示し、プレゼンティーズム対策が重要であることを説明。
    • 女性社員への支援が企業業績や人材定着率向上につながることを理解してもらう。
  3. 優先施策の実施
    • まずは福利厚生や健康診断でできる範囲から着手し、婦人科検診の導入やカウンセリング窓口の整備などを行う。
    • オンライン含む研修や啓発活動を実施し、職場全体の理解を深める。
  4. 効果測定とPDCAサイクル
    • 一定期間後に再度サーベイを行い、プレゼンティーズムや離職率、医療費などを測定。
    • 結果をもとに施策を改善し、継続的な効果向上を目指す。

こうした地道な取り組みが、企業の生産性と従業員の健康を同時に高める土台となります。女性の健康課題は、もはや「個人の問題」ではなく「組織的に解決すべき課題」です。働く女性が心身ともに健康でパフォーマンスを最大限発揮できる環境づくりは、企業経営の競争力強化にも直結します。本記事を参考に、自社の健康経営をさらに一歩進めてみてください。

引用・注釈

[1] 内閣府 男女共同参画局「男女共同参画白書 令和6年版」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r06/zentai/pdfban.html

[2] 経済産業省ヘルスケア産業課 「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」令和6年2月https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf

[3] Gawron LM, et al.“Menstrual cycle-associated symptoms and workplace productivity in US employees: A cross-sectional survey of users of the Flo app.”
Journal of Women’s Health (2023) PMID: 36544535

[4] Ishimaru T, et al.“Impact of menopausal symptoms on presenteeism in Japanese women.”
Occupational Medicine 73(7):404-409 (2023) PMID: 37494697

[5] Tokumitsu K, et al.“Prevalence of perinatal depression among Japanese women: a meta-analysis.”
Biopsychosocial Medicine 14:5 (2020) PMID: 32607122

[6]  厚生労働省 雇用環境・均等局「働く女性の健康推進に関する実態調査2018」結果(2024年公表資料)
https://hgpi.org/wp-content/uploads/1b0a5e05061baa3441756a25b2a4786c.pdf

[7]  古井祐司, 村松賢治, 井出博生「中小企業における労働生産性の損失とその影響要因」日本労働研究雑誌 2018年6月号 No.695 49-61
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2018/06/pdf/049-061.pdf

[8] 厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」結果 概要
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r02.html

[9] World Health Organization(WHO)“Health and Work Performance Questionnaire (HPQ)”
https://www.hcp.med.harvard.edu/hpq/

[10] Rodrigo CH, et al.
“Effectiveness of workplace-based interventions to promote wellbeing among menopausal women: a systematic review.” Women’s Health 19:17455057231178018 (2023) PMID: 37207326

参考

経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック(改訂第1版)」(2018年)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook2804.pdf

執筆者のプロフィール

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ポケットセラピスト編集者

企業として介入しづらいメンタルヘルスの不調に対して、カラダの痛みや悩みからアプローチ。医学的根拠に基づいた、独自性の高いサービス『ポケットセラピスト』のマガジン編集担当です。 健康経営の取り組みに役立つ最新の情報をお届けします。