高ストレス者への効果的なフォロー方法とは?【職場での具体的対応策】

現代の職場では多くの労働者が強いストレスを抱えており、そのケアは企業経営の重要課題です。実際、厚生労働省の調査では「現在の仕事や職業生活で、強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある」労働者の割合が82.7%にも上ります[1]。こうした背景から、日本では2015年の労働安全衛生法改正により従業員50人以上の事業場で年1回のストレスチェック実施が義務化されました。ストレスチェックの結果「高ストレス」**と判定される従業員は全体の約10%程度となるように設計されており[2]、企業はこれら高ストレス者を適切にフォローすることが求められています。

本記事では、企業の人事・労務・健康経営担当者や産業医・保健師の方向けに、ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員(およびその予備群)への効果的なフォロー方法を解説します。

まず高ストレス者が直面する課題や社会的背景、彼らを放置した場合の企業リスクを整理し、続いて高ストレス者を検知する方法と具体的な対応策を網羅的に紹介します。さらにフォロー施策による改善効果を示すデータやエビデンスを紹介し、最後に個人と企業双方にもたらすメリットと行動提案をまとめます。高ストレス者への対応策を知り、実践に移すことで、従業員の健康増進と組織の生産性向上を両立させましょう。

高ストレス者が抱える課題と社会的背景

働く人々のストレス要因は様々ですが、厚生労働省の調査によれば「仕事上の失敗・責任」が最も大きなストレス要因であり、次いで、「仕事の質・量」「対人関係(ハラスメント含む)」が挙げられています[1]。長時間労働や責任の重圧、人間関係の摩擦といった職場環境の問題が積み重なり、心身に不調をきたす労働者が増えてきました。こうした状況を受け、政府は労働者のメンタルヘルス不調予防のためにストレスチェック制度を導入し、従業員自身のストレス気づきと職場環境の改善を促しています。ストレスチェックでは、本人の自覚症状やストレス要因の深刻度などから一定基準を超えた者が「高ストレス者」として抽出されます。その判定基準は企業ごとに設定できますが、前述の通り厚労省のマニュアルでは全体の約10%が高ストレス者となるよう設計するとされています[2]。

高ストレスと判定される従業員は、強い不安感や疲労感などの心理的症状を抱えている場合が多く、このままではうつ病や不安障害の発症リスクが高まる恐れがあります。また集中力の低下や睡眠障害などにより業務遂行にも支障が出始めており、適切なフォローが急務です。企業としては高ストレス者を早期に把握し、深刻な健康問題に至る前に支援することが重要です。本制度導入の社会的背景には、メンタル不調による労災申請件数や自殺件数の増加といった問題もあり、働く人の心の健康を守る取り組みが社会全体で求められています。

高ストレス者が企業にもたらす影響・リスク

高ストレス状態の社員を放置すると、本人の健康悪化のみならず企業全体にも様々な悪影響が及びます。まず生産性の低下です。強いストレスを抱えた社員は集中力や意欲の減退によりパフォーマンスが落ち、いわゆるプレゼンティーイズム(出勤はしているが生産性が低い状態)の原因となります。さらに状況が悪化すれば、長期休職や離職に至るリスクも高まります。ある大規模研究では、ストレスチェックで高ストレスと判定された労働者は、そうでない労働者に比べて1ヶ月以上の長期病休に入るリスクが男性で6.59倍、女性で2.77倍にも上ったと報告されています[3]。実際の統計でも、メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した社員がいる事業所は全体の10.4%メンタル不調が原因で社員が退職した事業所は6.4%にのぼり、退職が発生した事業所においては前年より増加しています[1]。つまり日本企業の約10社に1社は毎年深刻なメンタル不調による休職者を出している計算となり、他人事ではありません。

このような休職・離職が発生すると、代替要員の確保や人材育成コストが発生し、組織の知見損失や士気低下にもつながります。また、メンタル不調が労働災害と認定され訴訟・補償問題に発展すれば、企業の社会的信用も損ないかねません。国際的に見ても職場のメンタルヘルス問題は大きな経済損失を生んでおり、例えばうつ病や不安障害による生産性損失は世界全体で年間1兆ドル(約150兆円)に達すると推計されています[4]。高ストレス者への適切な対策を怠ることは、企業にとって人材面・業績面の両方で大きなリスクとなるのです。

高ストレス者の検知方法(ストレスチェック結果の活用など)

高ストレス者を確実にフォローする第一歩は、的確な検知(スクリーニング)です。日本の企業においてはストレスチェック制度がその中心的な役割を果たしています。ストレスチェックでは57項目等からなる標準的質問票への回答を点数化し、高ストレスの基準に達した従業員を抽出します。結果は受検者本人および産業医等に提供され、本人が面接指導を希望するかどうか申出できる仕組みになっています。判定基準にもよりますが、前述の通り典型的には受検者の上位約10%前後が高ストレス者として抽出されることになります。企業はこの結果を活用し、フォローが必要な社員を漏れなく把握することが重要です。

ストレスチェック以外にも、定期的なサーベイ・アンケートの実施や、勤怠情報の確認、日頃から従業員の様子に気を配ることが大切です。例えば長時間残業が続いている社員業務パフォーマンスが急激に低下した社員表情が暗く疲弊している社員などは要注意です。管理職や産業保健スタッフが定期的に面談やヒアリングを実施し、業務量や人間関係の悩みを早期にキャッチできれば、深刻化する前に対策を講じられます。また社内掲示板やアンケートで職場のストレス要因に関する意見募集を行うことも有効でしょう。重要なのは、「困ったときは相談して良い」という風土づくりです。経営層から従業員へのメッセージとしてメンタルヘルスの重要性を伝え、プライバシーに配慮した相談体制を整えることで、従業員自身が早めにSOSを発しやすくなります。

高ストレス者への具体的フォロー施策

高ストレスと判定された従業員に対しては、速やかかつ計画的なフォローアップが欠かせません。以下に企業で導入できる主な具体策を挙げます。

  • 産業医による面接指導の実施:受診勧奨を行なった高ストレス者本人から面接の希望があった場合は、法令に基づき産業医等による医師の面接指導を速やかに手配します。産業医面談では、当該社員のストレス要因や健康状態を詳しくヒアリングし、必要に応じて就業上の配慮(例:勤務時間の短縮、仕事内容の変更)に関する意見をもらいます。産業医の専門的所見は、職場側が具体的な支援策を講じるうえで重要な指針となります。一方で、面接指導までの期間のフォローや、本人が面接の希望をしない場合もあるため、他の対策方法も設けておくと安心です。
  • 社内外の相談窓口の整備:面接指導の希望に関わらず、誰でも気軽に相談できる窓口を用意しておくことが望まれます。例えば、社内の産業保健スタッフ(産業医・保健師)やカウンセラーによる相談室、あるいは外部EAP(従業員支援プログラム)のカウンセリング窓口を設置します。匿名で専門家に相談できるホットラインがあれば、本人が面接指導を躊躇する場合でも代替的なサポートを提供できます。これにより従業員は抱えている悩みを早期に吐き出せ、適切な助言や医療受診勧奨を受けることができます。
    社内の窓口の場合は身近でフォローができる他、意見を社内制度の見直しなどに活用できる一方で、社内に自身のメンタルヘルスについての相談を行うことに抵抗がある従業員もいます。そういった場合は社外の窓口が設けられていると利用のハードルが低減されるため、自社に合った環境が整備できると良いです。
  • 個別フォローと支援計画の策定:高ストレス者には産業保健スタッフや上司・人事担当者が定期的にコンタクトし、状況を見守ります。初期対応として、本人への結果通知とフォローの意思確認を丁寧に行いましょう(プライバシーに配慮しつつ「最近体調はいかがですか」と声かけるなど)。そのうえで、必要に応じて勤務負荷の軽減(業務量や残業時間の調整、休暇取得推奨)や配置転換の検討を行います。本人の了承のもと、人事部や上司と協力して個別の支援計画を立てることが重要です。計画には具体的な措置と経過観察のスケジュールを盛り込み、関係者間で共有します。フォロー期間中は定期的に面談を実施し、状態の変化に応じて支援策を柔軟に見直します。
  • メンタルヘルス研修・ラーニングの提供: 従業員本人のケアと同時に、組織としてメンタルヘルス教育を充実させることも効果的です。例えば高ストレス者への対応方法について管理職向け研修を実施し、部下のストレス兆候の気づき方や傾聴のスキル、必要なエスカレーション手順(産業医や人事への繋ぎ方)を習得させます。また一般従業員向けにはストレスマネジメント研修eラーニングを提供し、認知行動療法のセルフケア技法、リラクセーション法(深呼吸法、マインドフルネス等)を学ぶ機会を設けます。知識を身につけることで、従業員自らストレスと上手に付き合う力を養い、結果的に高ストレス者の予備軍を減らす効果が期待できます。
    🔗 認知行動療法を活用したメンタルヘルス不調対策についてはこちら
  • 健康増進プログラムの導入: 心身の健康は相互に関連するため、社員の生活習慣改善やリフレッシュを支援するプログラムも有効です。例えば、職場で参加できる運動プログラム(ウォーキングイベントやヨガ教室)、リラクゼーション施策(マッサージや休憩スペースの設置)、メンタルヘルスに関する情報提供(社内報でのコラム配信)など、多角的な取り組みが考えられます。福利厚生としてカウンセリングサービスや健康アプリを提供する企業も増えており、社員が自分のペースで利用できるリソースを用意しておくと良いでしょう。これらのプログラムは高ストレス者本人の症状緩和に役立つだけでなく、全従業員の健康意識を高めることで予防的な効果も期待できる、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチにも繋げることができます。
    🔗 ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチについてはこちら
  • 職場環境の改善と再発防止策: 個人へのフォローと並行して忘れてはならないのが、職場全体の環境改善です。ストレスチェックの集団分析結果を活用し、部署ごとの平均ストレス度合いや共通のストレス要因を把握します。もし「業務量過多」「コミュニケーション不足」「職場の人間関係問題」等、構造的な課題が浮かび上がった場合は、経営層や管理職を交えて改善策を検討・実施します。例えば業務プロセスの見直しや人員増強による負荷分散、ハラスメント防止策の強化、レイアウト変更やテレワーク導入による働きやすさ向上など、職場ストレスの原因を除去・緩和する取り組みを推進します。環境が改善されれば高ストレス者の状態も好転しやすくなり、将来的に同様の問題が発生することを防ぐ効果があります。まさにストレスチェック制度の目的である「職場環境の改善によるメンタルヘルス不調の未然防止」の実践と言えるでしょう。

以上のように、多方面から高ストレス者を支援することが重要です。ポイントは早期対応・継続フォロー・根本原因への対処の3点です。初動の素早いケアで心身の悪化を防ぎ、定期的なフォローアップで回復を見守り、背景にある職場の課題にもメスを入れる――こうした包括的アプローチが効果的なフォローには欠かせません。

高ストレス者対策による改善効果

高ストレス者へのフォロー施策は労働者の健康と職場環境にどのような成果をもたらすのでしょうか。ここでは、公的機関のデータや研究結果からその効果を確認します。

まず、ストレスチェック結果の集団分析と職場環境改善を継続的に実施した企業では、労働者のストレス反応(ストレス度合い)が有意に改善したことが報告されています [6]。これは単にストレスチェックを実施するだけでなく、その結果を分析して具体的な職場改善につなげた場合に、社員のメンタルヘルス指標が向上することを示すエビデンスです。

さらに厚生労働省のヒアリング調査では、ある企業が数年にわたりストレスチェック制度を活用し職場環境の整備や社員ケアを続けた結果、メンタルヘルス不調者の数(発症件数)が導入前の5分の1に減少したとの事例も報告されています [5]。不調者が20%まで激減したという劇的な改善は、粘り強く対策を講じた企業ではメンタル不調の予防に大きな成果が出せることを物語っています。

この他、職場のメンタルヘルス介入に関する国際的な研究でも、適切なプログラムは社員のウェルビーイング(幸福度)や仕事へのエンゲージメントを向上させ、ストレスや燃え尽き症候群(バーンアウト)を減少させるとの結果が数多く報告されています[6]。例えば複数の職場介入研究を分析したレビューでは、何らかのポジティブな効果(ストレスレベルの低下、メンタル不調の軽減、生産性指標の向上など)が確認されています[6]。

これらのエビデンスは、高ストレス者へのフォローや職場改善への投資が「人も企業も健全になる」有効な手段であることを示しています。一朝一夕に成果が出るものではありませんが、データに裏付けられた対策を継続することで、必ずや職場のメンタルヘルス指標は改善に向かうでしょう。

高ストレス者へのフォローは「攻めの健康経営」の要

ストレスチェックで明らかになった高ストレス者へのフォローは、企業の責務であると同時に組織の持続的発展につながる重要な施策です。本記事では、高ストレス者が抱える課題とその放置リスク、そして検知から対応・再発防止に至る包括的なフォロー方法を解説しました。要点を振り返ると以下の通りです。

  • 高ストレス者の早期発見: ストレスチェックや日常の観察を通じて兆候を見逃さず、問題が深刻化する前に把握する。
  • 迅速かつ丁寧なフォロー: 本人への声かけや面談機会の提供、必要に応じた勤務配慮など初期対応を迅速に行う。産業医面接やカウンセリングなど専門支援につなげ、継続的に経過を見る。
  • 組織的な支援体制: 社内外の相談窓口を整備し、管理職研修や従業員教育を通じてメンタルヘルスに関する知識と風土を醸成する。社員が安心して相談・支援を受けられる文化づくりを行う。
  • 職場環境の改善: ストレスの原因となる職場の課題(長時間労働、人員不足、ハラスメントなど)を洗い出し、業務プロセスの見直しやルール整備など組織として改善策を実施する。再度高ストレス者を生まない土壌づくりもフォローの一環とする。

高ストレス者への対応は、従業員個人の健康維持・増進という直接的メリットに加え、企業にとっても人材の定着や生産性向上、リスク低減といった大きなメリットがあります。事実、世界保健機関(WHO)の分析でもメンタルヘルス対策への投資は費用対効果が高く、1ドルを投じるごとに4ドルのリターンが得られると報告されています[7]。社員の心身が健やかであってこそ最大のパフォーマンスを発揮でき、組織全体の活力も高まります。まさに高ストレス者へのフォローは「攻めの健康経営」の要とも言えるでしょう。

最後に、本記事の内容を踏まえた行動提案として、まずは自社のメンタルヘルス対策の現状を点検することをおすすめします。

ポケットセラピストでは、ストレスチェックやプレゼンティーズムを測定できるサーベイにより組織状況を把握することが可能です。またストレスチェック結果を活用した高ストレス者へのフォローや、eラーニングやオンラインフィットネスプログラムを活用して従業員全体へ健康施策を届けることで、ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチの両方の施策に取り組むことができます。
特にメンタルヘルス不調へのアプローチでは、身体の痛みをきっかけに面談利用の案内をすることができるため、相談窓口の利用に抵抗がある従業員や不調の自覚のない従業員にも使っていただくことができます。

ストレスチェックの実施状況や高ストレス者のフォロー体制を確認し、必要な改善策を検討してください。幸い、厚生労働省や産業保健機関から各種ガイドラインや支援サービスが提供されていますので 、今は予算に余裕がない企業もそうしたリソースも活用しながら計画的に施策を進めましょう。高ストレス者への適切なフォローは、従業員一人ひとりの笑顔と職場全体の活力を守る投資です。今日からできることに着手し、誰もが安心して働ける健やかな職場づくりを実現しましょう。

引用・注釈

[1] 厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査) 個人調査」(平成5年)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r05-46-50_gaikyo.pdf

[2] 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150507-1.pdf

[3] Akizumi Tsutsumi et al. “A Japanese Stress Check Program screening tool predicts employee long-term sickness absence: a prospective study”. Journal of Occupational Health.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/joh/60/1/60_17-0161-OA/_article/-char/ja

[4] World Health Organization, Mental health at work – Key facts (2022)
https://www.who.int/teams/mental-health-and-substance-use/promotion-prevention/mental-health-in-the-workplace

[5] 厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」
https://www.mhlw.go.jp/content/000917251.pdf

[6] Cohen et al., ”Workplace interventions to improve well-being and reduce burnout for nurses, physicians and allied healthcare professionals: a systematic review”, BMJ Open 13(6): e071203 (2023). PMID:37385740

[7] World Health Organization, Investing in treatment for depression and anxiety leads to fourfold return (News release, 2016)
https://www.who.int/news/item/13-04-2016-investing-in-treatment-for-depression-and-anxiety-leads-to-fourfold-return

執筆者のプロフィール

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ポケットセラピスト編集者

企業として介入しづらいメンタルヘルスの不調に対して、カラダの痛みや悩みからアプローチ。医学的根拠に基づいた、独自性の高いサービス『ポケットセラピスト』のマガジン編集担当です。 健康経営の取り組みに役立つ最新の情報をお届けします。