子育て世代の両立支援方法とは?【企業が取り組むべき支援策を紹介】
働く親にとって、育児ストレスや産後うつ、さらには“子育てバーンアウト”に至るメンタルヘルスの不調は、個人だけでなく企業全体にも大きな影響をもたらす課題です。特に人事・労務・健康経営を担う皆様にとっては、優秀な人材の離職リスクや職場の生産性低下、労務上のトラブルなどを回避するうえで、育児ストレスを軽減しながら仕事と子育てを両立させる環境づくりが重要となります。
本記事では、育児ストレスが親のメンタルヘルスに及ぼす影響と、企業として実践できる両立支援策を取り上げます。自社の健康経営や従業員満足度向上、ひいては企業価値の維持・向上に向けた取り組みの参考にしていただければ幸いです。
育児ストレスとメンタルヘルスへの影響
子育てに伴うストレスは、親のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼすことが知られています。特に産後うつ(postpartum depression)は育児期の母親によく見られ、育児ストレスがそのリスク要因の一つです。実際ある研究では、育児に伴うストレスレベルが高い母親ほど産後うつ症状が強まる傾向が報告されており、産後3か月から14か月の母親105名を追跡し、育児ストレスが後の抑うつ症状を有意に予測することが示されました[1]。つまり、育児ストレスが蓄積すると抑うつ状態を招きやすいことが示唆されています。
育児ストレスはまた、“子育てバーンアウト”と呼ばれる育児版の燃え尽き症候群を引き起こす場合があります。子育てバーンアウトとは、育児への情熱やエネルギーが慢性的なストレスによって枯渇した状態を指し、近年注目されています。ある調査研究では、働く親の65%が育児による燃え尽き症候群(バーンアウト)を感じていると報告されました 。この研究では1,285名の働く親を対象にオンライン調査が行われ、育児バーンアウトを感じている親ほどうつ病や不安症状の併発率が高いことが明らかになっています[2]。最新の系統的レビューでも、親の不安感や抑うつ症状が育児バーンアウトと関連する主要因であることが示されています[3]。つまり、育児ストレスが極度に高まると燃え尽き症候群に陥りやすく、その背景には親自身のメンタルヘルス不調(不安やうつ)とも深く結びついていることがわかります。
こうしたメンタルヘルス不調は親自身の生活の質を下げるだけでなく、育児にも悪影響を及ぼす可能性があります。例えばバーンアウト状態の親は子どもへの関わりに喜びや関心を持てなくなり、深刻な場合には子どもへのネグレクトや虐待リスクが高まることも指摘されています[2] 。したがって、子育て期の親のメンタルヘルスケアは、親子双方の健全な生活のために極めて重要です。
育児と仕事の両立が職場に及ぼす影響
仕事と育児を両立することは、多くの働く親にとって大きな挑戦であり、それが職場でのパフォーマンスやキャリアにも影響を及ぼします。仕事と家庭の両立によるストレス(ワーク・ファミリー・コンフリクト)は、職場でのストレス増大や仕事満足度の低下を招き、結果的に生産性を下げる要因となりえます。実際、両立がうまくいかずワークライフバランスが崩れると、望まない離職の増加、心身の不調、生産性の低下に結びつくことが報告されています。働く親本人だけでなく、そのストレスは職場の同僚や家庭のパートナーにも波及し、組織全体の士気やチームワークに影響する「スピルオーバー効果」も指摘されています[4]。
特に両立ストレスが高い場合、離職(転職や退職)を検討する割合が高まることが研究で示されています。国際的なメタ分析によれば、仕事と家庭の両立に葛藤を抱える従業員は離職意向が有意に高く、相関係数で約0.28と中程度の関連性があると報告されています。この関連性は文化の違いに関わらず一貫してみられる傾向で、両立支援策の整備が離職防止に重要であることが示唆されています[5]。企業にとっても、育児と仕事を両立しやすい職場環境を整えることが、生産性の維持向上や人材の定着につながると考えられます。実際、柔軟な勤務制度や在宅勤務の導入などワークライフバランス支援策を充実させた企業では、従業員の離職率低下や業務パフォーマンスの向上がみられるとの指摘もあります[5]。言い換えれば、仕事と育児を両立しやすい環境づくりは、従業員のストレス軽減だけでなく企業の利益にも合致するのです。
一方で、両立が困難な場合には優秀な人材の離職を招きやすく、特に出産前後の女性がキャリアから離脱してしまうケースが問題視されてきました。次の公的データの節で述べるように、日本では依然として多くの女性が出産を機に離職しており、これが労働力の損失や職場の多様性低下につながっています。また、男性側の育児参加が進まないことも、女性に育児負担が偏る一因となり職場ストレスを高める要因です。職場の同僚や上司の理解不足や長時間労働の慣行なども両立ストレスの背景にあり、包括的な対策が求められます。
データで見る育児と仕事両立の現状と課題
日本の公的データを見ると、仕事と育児の両立に関する状況は徐々に改善しつつあるものの、依然として課題が残っています。厚生労働省の調査によれば、第1子出産後も就業を継続している女性は約7割に上ることが報告されています。これは過去と比べて大幅に改善した数字で、かつては出産前後に約半数の女性が離職していましたが、制度整備などにより継続就業率が向上した結果と考えられます。実際、出産前に職についていた女性のうち約70%が出産後も働き続けており、政府はこの継続就業率を令和7年(2025年)までに70%にする目標を掲げています [6](直近でほぼ目標に近い水準です)。一方で依然として約3割の女性は第一子出産を機に離職している計算になり[6]、出産退職ゼロに向けた取り組みは道半ばです。また、内閣府の推計では、2012~2017年の5年間で出産・育児を理由に前職を離れた女性は約101万人にのぼり、女性の離職者全体の9.2%を占めるとされています [7]。このように相当数の女性が出産育児期に職場から去っており、人材流出の観点からも看過できない状況です。
両立支援の課題は女性だけではありません。男性の育児休業取得率は令和3年度時点で13.97%にとどまっており、依然として低水準です [6]。多くの家庭で父親の育児参加が限定的なため、母親の負担が過度に大きくなりがちで、それが先述の女性の離職やメンタルヘルス不調につながる悪循環が指摘されます。政府は男性の育休取得率についても2025年までに50%に引き上げる目標を掲げ [6]、2022年には育児休業取得を促進する改正育児・介護休業法(いわゆる男性版産休「産後パパ育休」の創設等)を施行するなどの対策を進めています。実際に男性の取得率は年々上昇傾向(2009年度に1.72%、2019年度に7.48%などから改善)にあり [6]、今後の企業文化の変化と相まってさらなる向上が期待されます。
以上のような公的データから、仕事と育児の両立をめぐる日本の現状は改善傾向にあるものの、女性の出産退職と男性の育児不参加という課題が依然残っていることがわかります。この課題に対処するため、企業による両立支援策の充実(例:在宅勤務・フレックスタイムの導入、育休取得推進)や、男性の育児参加を促す社会的風土の醸成が重要です。厚生労働省の報告書でも、両立支援策の利用状況を分析しつつ、「誰もが仕事と家庭を両立できる職場環境」の実現に向けた取り組みの必要性が強調されています[6]。育児期の親が心身ともに健康で働き続けられるような支援は、少子化対策や経済の活性化の観点からもますます重要となっていると言えるでしょう。
企業による子育て両立支援の方法とは?[8]
制度の活用や理解の促進を進めることは、仕事と家庭の両立によるストレス軽減につながります。以下では、実際に企業が取り組むさまざまな制度や支援体制をご紹介いたします。自社のお取り組みの、参考にしてみてください。
働き方に関する制度による支援
- 男性育休取得の推進:明治ホールディングス株式会社では、男性育休を取得しやすい風土情勢に向け、管理職の意識改革に力を入れています。管理職向けの研修の実施、社内イントラ上で男性育休特集記事の掲載、育休取得対象者の上司に対する人事部からの個別の声掛けなど、制度が活用されるための取り組み支援を行い、男性の意休取得日数は年々上昇傾向にあります。
キャリア支援
- 休業中の収入シミュレーション:サッポロホールディングス株式会社では、”休業中の収入への不安解消”のため、実際の給与明細をそのまま入力することで休業中の収入シミュレーションができる仕組みを作成しています。不安解消と休業中のマネープランを立てやすくしたこと、さらに「育児・家事ガイドブック」などの育児休業を促進する各種制度により、男性の育児休業取得率100%を達成しています。
- キャリア推進室の設置:富士ソフト株式会社では、女性の活躍促進や誰もが活き活きとキャリア形成できる働き方を目指して「Lキャリア推進室」を設置。年代・職種・役職を限定しないメンバーが全社横断で、制度の見直しや環境整備などを行っています。
社内理解の促進による支援
- 男性育休に関するeラーニング:DIC株式会社では、上司に男性育休制度の理解をうながし、積極的な長期育休取得を目指すためのeラーニング実施といった啓蒙活動を行っています。さらに、取得のハードルを下げることを目的として、実際に育休を取得した男性社員とこれから取得を考えている男性社員との懇談会を行うなど、育児参加マインドの促進に取り組んでいます。
- ポータルサイトやコミュニケーションツールの活用:株式会社かんぽ生命保険では社員に有用な情報を発信するための「ダイバーシティ通信」を活用。TOPPANホールディングス株式会社でも、情報共有プラットフォーム「D&Iポータル」上で、制度の活用事例やセミナー開催等の情報を集約することにより、グループ全体で良質に関するスキルの共有や、職場内における理解の促進を支援しています。
福利厚生などの制度による支援
- ベビーシッター・育児補助:日本ガイシ株式会社では、共育て・共働きを後押しするで制度の一角として、上述の育休やテレワーク勤務を支援する制度の他に、ベビーシッターや育児保育利用補助の制度を取り入れることにより、男性の利用実績の増加につながっています。
- 相談窓口の設置:社内外に家庭や仕事の悩みを相談できる窓口の設置は、多くの企業が行っています。テルモ株式会社では、相談窓口で寄せられた課題を顕在化させ、制度や仕組みの構築及び見直しにつなげています。日本ガイシ株式会社では、本人のみならず、上司を含む従業員の不安軽減のため「両立なんでも相談窓口」を設置。相談のしやすさや相談できる内容の幅の広さが、従業員の不安軽減や持続的な両立支援に繋がるということがいえます。
社外への相談窓口は、利用者のプライバシーを守られるという安心感や、専門家のアドバイスを受けることができるという点で非常に有効です。医療専門家に心身の健康不調を相談できるポケットセラピストは、365日どこからでの医療職に相談することができ、お子様のいる医療職も在籍していることから、お子様と一緒に参加いただくことも可能です。

最後に
育児ストレスによるメンタルヘルス不調は、従業員個人の健康にとどまらず、離職や生産性低下など企業経営にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。しかし、柔軟な勤務制度や育児休業の取得促進、ベビーシッター利用補助など企業独自の支援制度を整備・周知することで、従業員が安心して育児と仕事を両立しやすい環境を築くことが可能です。特に男性の育児参加を後押しする仕組みは、女性の離職防止や職場全体の労働負荷バランス改善につながります。
健康経営を推進するうえでも、従業員が心身ともに健康で働ける職場環境の整備は不可欠です。企業として主体的に取り組むことで、人材定着率や企業ブランドの向上にも寄与するでしょう。
引用・注釈
[1] Thomason E. et al. – “Parenting stress and depressive symptoms in postpartum mothers: bidirectional or unidirectional effects?” – PMID: 24956500
[2] Gawlik K. S. et al. – “Burnout and Mental Health in Working Parents: Risk Factors and Practice Implications.” – PMID: 39297832
[3] Ren X. et al. – “A systematic review of parental burnout and related factors among parents.” – PMID: 38317118
[4] Rao T. S., Indla V. – “Work, family or personal life: Why not all three?” – PMID: 21267360
[5] Yildiz B. et al. – “Relationship between work-family conflict and turnover intention in nurses: A meta-analytic review.” – PMID: 33855744
[6] 厚生労働省「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実に関する参考資料集」 (令和4年度調査報告書)
https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001200622.pdf
[7] 内閣府男女共同参画局 – 「第1子出産前後の女性の継続就業率 及び 出産・育児と女性の就業状況について」 (平成30年11月) https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_45/pdf/s1.pdf
[8] 経済産業省「令和5年度「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」 事例集」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/r5tomotomojirei.pdf



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