【人事・労務向け】VDT症候群とは?【原因と対策を徹底解説】
テレワークの浸透やPC・スマートフォンの普及に伴い、VDT(Visual Display Terminal)症候群と呼ばれる、ディスプレイを長時間見る作業(VDT作業)によって生じる様々な健康不調がクローズアップされています。典型的には目の疲れ(眼精疲労)や肩・首のこり、頭痛、腕や手の痛み・しびれ、さらには精神的ストレスや慢性疲労感などが含まれます。厚生労働省もこの問題を重視しており、VDT作業による心身への過重負担を軽減するため、作業環境の整備や長時間労働の防止といった適切な対策を講じるようガイドラインで示しています[1]。
本記事では、企業の人事・労務・産業保健担当者の方々を対象に、VDT症候群の課題や要因、企業にとっての影響、そして不調の早期検知方法と効果的な対策について体系的に整理します。全従業員を対象としたポピュレーションアプローチと、特定の不調者に対するハイリスクアプローチの両面から具体策を提案し、職場で今すぐ実行可能な健康プログラムやフィットネス・メンタルヘルスケア施策の例も紹介します。
目次
VDT症候群の症状と要因とは?
VDT症候群は、パソコンやタブレット、スマホなど情報機器の画面を長時間にわたり凝視し続けることで、目・身体・メンタルに様々な負荷が蓄積した状態を指します。正しい姿勢(椅子に深く腰掛けて背筋を伸ばし、ディスプレイは眼から40cm以上離して上端が目の高さよりやや下になるよう設置する等)や適切な環境(照明や空調の調整)が推奨されますが [1]、これらが守られずに長時間同じ姿勢・作業を続けると首・肩・目・手指への負担が蓄積し不調を招きます。
VDT作業で生じやすい具体的な症状には、背中のこり・痛み、腕や手のしびれ・痛み、首や肩の凝り、腰痛などの筋骨格系の痛みに加え、目の疲れ・乾燥・かすみ、頭痛といった眼精疲労の症状が挙げられます。
さらに、作業に没頭するあまり小休止を取らない習慣も問題です。休憩なしでPC作業を続けると眼の疲労感が増大し、長時間に及ぶと集中力の低下やイライラ感、ストレスの蓄積を招きやすくなります。実際、近年の系統的レビューでも、「休憩を取らない」ことはコンピュータ視力症候群(眼精疲労)の有意なリスク要因であり、その発症率がおよそ2.24倍に増加するとの分析結果が報告されています[2]。
同様に長時間のVDT作業もリスクを高め、VDT使用時間が長い人は短い人に比べて眼精疲労の発症率がおよそ2倍に上昇していました。加えて、画面との距離が近すぎる(40cm未満)場合も目と身体への負担が大きく、適切な距離を保てないまま作業するとリスクが4倍以上になることも示されています[2]。これらの要因に不適切な姿勢(猫背や前かがみ、画面を覗き込むような姿勢)や作業環境(画面の高さや照度が合っていない等)が重なると、慢性的な首や肩こり、腕の痛み、さらには疲労の蓄積による倦怠感が強まり、身体的疲労と精神的ストレスの双方が増大します。特に女性では、休憩を取らず連続してPCに向かう働き方が心理的なストレス症状(睡眠障害や抑うつ気分など)の発生リスクと関連するとの報告もあり[3]、VDT作業は身体のみならずメンタル面にも影響し得る点に注意が必要です。
生産性低下・労働損失など企業への大きな影響
従業員にVDT症候群による不調が蓄積すると、企業にとって無視できない生産性への悪影響が現れます。例えば、眼精疲労や頭痛を抱えた状態ではディスプレイ上の細かなミスが増え、作業効率が低下する傾向があります。実際にVDT由来の眼精疲労は作業エラー率の増加や視機能の低下を招き、結果として生産性の低下や仕事に対する満足度の低下につながる重大な職業上の問題であると指摘されています[2]。また、首・肩・腰などの慢性的な痛みを抱えたまま働くと集中力や作業速度が落ち(いわゆるプレゼンティーイズムの状態)、本来得られるはずのパフォーマンスを発揮できなくなります。蓄積した疲労や痛みにより労働損失が生じているケースも多く、厚生労働省のガイドラインでも作業者が強い負担を感じている場合には作業方法や環境の早期改善が必要とされています[4]。
さらに問題が深刻化すると、従業員が病休や休職を取らざるを得なくなったり、最悪の場合は健康上の理由で離職に至るケースも考えられます。特にメンタル不調が併発するケースでは、適切な対処が遅れると長期離職につながるリスクがあり、企業にとって人材損失・代替要員のコスト増といった打撃となります。実際、VDT由来の腰痛や肩こりとメンタル不調は関連する場合もあり、身体症状の訴えからメンタル面の不調を早期に察知して対処することが重要です。
以上のように、VDT症候群は放置すれば従業員本人の健康だけでなく組織全体の生産性や業績にも影響し得るため、予防と早期対策が企業経営上も重要課題となります。
VDT症候群による不調の早期発見方法とは?
VDT症候群による不調を早期に検知するには、日頃から従業員の健康状態を把握する仕組みづくりが欠かせません。まず、法定の定期健康診断などを活用し、視力や眼の状態、筋骨格系(首・肩・腕・手指・腰)の状態についてチェックすることが基本です。
厚労省のガイドラインでも、情報機器作業に従事させる前の配置前健康診断やその後の定期健診で、本人の自覚症状の問診に加えて眼科的検査および首・肩・手指に関する検査を含めて実施するよう推奨されています [1]。これにより、視力の低下やドライアイの兆候、頸椎や上肢に負担が出ていないかを定期的に確認し、異常があれば早期に対処できます。
また、職場でのセルフチェックを促すことも有効です。例えば、月1回程度の簡易アンケートで「眼の疲労度」「首肩のこり具合」「全身の疲労度」など主観症状を自己評価してもらい、基準以上のスコアが続く従業員を産業医や保健師がフォローするといった仕組みが考えられます。併せて、社内に健康相談の窓口を設けておくことも大切です。ガイドラインでも事業者はメンタルヘルスや健康上の不安、慢性疲労、ストレスによる症状などについて作業者が気軽に相談できる機会を設けるよう努めるべきとされています[4]。産業医や保健師による面談機会を整備し、プライバシーに配慮しつつ悩みを打ち明けやすい体制を整えておけば、従業員は早めに不調を共有でき重症化の防止につながります。
さらに、最新のデジタル技術も活用できます。例えば、従業員のPC作業時間をモニタリングして強制的に休憩を促すアプリや、Webカメラで姿勢を検知してリアルタイムでアドバイスするツールなどが登場しています
このように、人事・産業衛生担当者はアナログな方法とデジタルツールの双方を組み合わせ、不調の兆候を見逃さない体制を築くことが求められます。特に複数の兆候(例:眼精疲労と肩こりが重なる、身体の痛みとストレススコアが高いなど)が見られる従業員はハイリスクと位置づけ、次章で述べる個別支援策につなげることが重要です。
VDT症候群への対策・予防策をご紹介
VDT症候群への対策は、すべての従業員を対象にしたポピュレーションアプローチ(職場環境・習慣の改善による全体予防)と、不調が見られる特定者へのハイリスクアプローチ(個別支援)の両面から講じることが肝要です[4]。ここではその具体策を順に示します。
🔗 ポピュレーションアプローチ/ハイリスクアプローチについての詳しい内容はこちら
全従業員向けの予防策(ポピュレーションアプローチ)
- 業務中の小休止の確保:組織全体でVDT症候群を予防するための重要な施策の一つは、作業時間管理と休憩の徹底です。厚労省ガイドラインでは、連続したVDT作業は原則1時間以内とし、作業と作業の合間に10~15分程度の休憩を設けること、さらに1時間の連続作業中にも1~2回は短い小休止(ストレッチや目を休める時間)を入れるよう指導することが望ましいとされています[1]。この方針に沿って、社内でも1時間ごとに画面から目と身体を離すリマインド(通知)を行ったり、適宜休憩を取得しやすい業務体制を整えましょう。例えば、PCに強制休憩ソフトを入れて定期的に画面をロックし、「立って歩く・遠くを見る」などの休憩アクションを促す運用も有効です。
- 作業姿勢や機器配置の改善:各従業員のデスクと椅子、ディスプレイの位置を人間工学に基づき適切に調整します。ディスプレイは40~70cm程度離して高さは目線のやや下に設定し、キーボードやマウス操作時に肘がほぼ直角に曲がる椅子の高さ・肘掛け位置に整えます[1]。ノートPCにはスタンドや外付けキーボードを用意し、画面の位置が低すぎて首が前屈しないようにします。照明は画面の映り込みやグレアを防ぐ配置・明るさに調整し、エアコンの風が直接目に当たらないよう配慮します。
- 従業員教育と健康プログラムの実施:全従業員に対し、眼や身体に負担をためないためのセルフケア方法を周知しましょう。例えば、「1時間ごとに数分間遠くを見て目を休める」「PC作業中は意識的に瞬きを増やす」「電話やオンライン会議は可能ならスタンディングで行う」など具体的なコツを共有します。また、社内でストレッチや体操を習慣化できる仕組みも検討します。
朝礼時や午後の休憩時に5分程度の簡単な体操(ラジオ体操や首・肩のストレッチ)を全員で行う取り組みは、筋肉の緊張を和らげ眼や体の疲労軽減に役立ちます。実際、オフィスでのエクササイズ介入は筋骨格系の不調軽減に有効であることが複数の研究で示されており[5]、気分転換によるストレス軽減効果も期待できます。就業前後や週1回の社内イベントとしてプロのトレーナーを招いた簡単なヨガ・ストレッチ講座をオンライン開催するのも良いでしょう。加えて、メンタルヘルスケアの観点からは、長時間労働を是正し十分な睡眠時間を確保すること、業務負荷が過度にならないようチームで助け合う風土を作ることが重要です。定期的なストレスチェックやストレスマネジメント研修を通じて、従業員がセルフケアと相互サポートに取り組む土壌を育みましょう。以上のような全社的予防策を講じることで、VDT症候群のリスクを大きく低減させることができます。
ハイリスク者への支援策(個別アプローチ)
次に、既に強い眼精疲労や痛み・ストレス症状が現れているハイリスク従業員に対する個別支援策です
- 専門家によるフォローアップ面談:面談で症状の詳細をヒアリングし、必要に応じて専門医療につなげます。例えば、重度の眼精疲労やドライアイが疑われる場合は眼科受診を促し、ドライアイ用点眼薬の使用や休憩方法について指導を受けてもらいます。首・肩・腰の痛みが強い場合は整形外科や整骨院で診察を受け、必要なら理学療法など治療に取り組みます。
企業によっては社内に理学療法士を招いた相談会を開催したり、オンライン健康相談サービスを導入して従業員がいつでも専門家に相談できるようにしている例もあります。ポケットセラピストなどのサービスでは、国家資格等を持つ理学療法士・トレーナーがオンラインで個別にカウンセリングを行い、一人ひとりに合わせた運動プログラムを処方することが可能です。こうした外部サービスも活用しつつ、不調者には職務環境の個別調整も検討します。

- 個別の職務環境の調整:具体的には、「当面の間は負担の大きいVDT作業の比率を減らし、書類作業や他の業務とローテーションする」「在宅勤務者であれば椅子やディスプレイをグレードアップしたものに変更する」「音声入力ソフトを導入してキーボード操作を減らす」等、可能な限りの配慮を行います。さらに、心理的ストレスが大きい従業員に対してはEAP(従業員支援プログラム)や社内カウンセラーとの面談機会を提供し、必要なら休職や勤務時間短縮など一時的な措置も検討します。ポイントは、本人が「つらい」と感じている状態を見過ごさず早期に手を打つことです。
- 運動療法の指導による運動療法:凝り固まった筋肉の疲労や長時間の拘束姿勢によるストレスは、適切なリハビリテーション(アクティブレストとしての体操・ストレッチ)によって解消し得るため、専門家の指導の下で継続的に運動療法を行うことも効果的です。ある研究では、オフィスワーカーに対して6か月間の運動プログラム(柔軟性・筋力・バランストレーニングを組み合わせた毎日5~10分程度の体操)を実施したところ、介入群は首・肩・腰など全身の痛みの強さと継続時間が大幅に軽減し(43~70%の痛み軽減)、結果的に病気欠勤日数が84.6%も減少するという顕著な改善効果が報告されています[6]。
このように、不調者に対して集中的な介入を行うことで健康回復と生産性向上の両面に大きな効果が期待できます。また、改善後も再発防止のためフォローを続けることが重要です。定期面談で状況を確認したり、継続的な運動に取り組めるようにセルフケアを促すなど、良好な状態を維持できるよう支援しましょう。
改善データ・効果検証
上述の対策を講じることで、具体的にどのような改善効果が得られるのか、エビデンスやデータを紹介します。まず、職場でのエクササイズ導入に関しては複数の研究がその有効性を支持しています。前述のように6か月間の運動介入で痛みや欠勤が大幅に減少した例[6]のほか、近年の系統的レビューでもオフィス環境で実施される運動プログラムは筋骨格系の不調や痛みを軽減する効果があると総括されています[5]。特に首・肩こりや腰痛については運動による症状緩和が複数のRCTで示されており、運動習慣のない対照群や他の介入(例:教育のみ)と比べて有意な改善が得られたとの報告が多くみられます[5]。
次に、休憩の効果についてもデータがあります。短い小休憩(1~5分程度の小休止)であっても、こまめに取ることで疲労蓄積を抑え活力を維持する効果が認められています。あるメタ分析では、小休憩が取られた場合は休憩なしの場合に比べて従業員の疲労感が有意に低減し(効果量d=0.35)、作業後の活力が向上することが示されました[7]。一方、パフォーマンス(業務成績)への即時の効果は小さいものの、認知的負荷の低い単純作業では休憩により処理速度が向上する傾向も報告されています。これは、負荷の高い作業ほど10分以上の長めの休憩が必要である可能性を示唆しており、業務の性質に応じた適切な休憩時間の設定が重要と言えます。
さらに、メンタルヘルスケア施策の効果としては、職場でのストレスマネジメント研修やEAPの導入により従業員のストレスレベルが低減し、生産性指標が向上した事例報告がいくつかあります。身体の痛みデータからメンタル不調を早期発見するアプローチは比較的新しい試みですが、これにより従業員の休職リスクを事前に察知して対策を打てた事例もあります。

総じて、エビデンスは「VDT症候群は適切な介入によって予防・改善可能である」ことを示しています。企業がエルゴノミクスに沿った環境改善や健康プログラムを導入すれば、従業員の身体的な不調が減り、ひいては病欠や生産性損失の削減につながる可能性が高いのです。実施した施策の効果は、健康診断結果(視力維持率や有訴率の推移)や欠勤率・離職率の変化、さらには従業員アンケートによる主観的な疲労・ストレスレベルの変化などで定期的に検証するとよいでしょう。データに基づきPDCAサイクルで施策を調整することで、より効果的な健康投資となり得ます。
まとめ
VDT症候群は現代の多くの企業で避けられない課題ですが、適切な対策によって従業員の健康被害を予防し、生産性の低下や労働損失を最小限に抑えることが可能です。本稿で整理したように、まずは全社的に作業環境の整備・休憩ルールの徹底・健康教育の実施といったポピュレーションアプローチを講じ、土台として従業員全員のリスクを下げます。そして、兆候が見られた従業員には産業医等によるフォローや専門サービスの活用などハイリスクアプローチで個別支援を行い、重篤化を防ぎつつ早期改善を図ります。この両輪のアプローチにより、従業員の眼精疲労や肩こり、精神的ストレスを着実に軽減し、結果的に企業全体のパフォーマンス向上と健康経営の推進につながるはずです。
重要なのは、経営層を含め組織としてVDT症候群のリスクを正しく認識し、継続的に対策に取り組むことです。幸い、公的ガイドラインや医療エビデンスも揃っており、本記事で紹介した施策はどれも実務で実行可能なものばかりです。ぜひ貴社の安全衛生計画にVDT症候群対策を組み込み、必要に応じてポケットセラピスト等の外部リソースも活用しながら、従業員の健康と生産性を守る取り組みを今日から始めてください。
引用・注釈
[1] 情報機器作業における労働衛生 管理のためのガイドライン https://www.mhlw.go.jp/content/000580827.pdf
[2] Lema AK, et al. Computer vision syndrome and its determinants: A systematic review and meta-analysis. SAGE Open Med. 2022;10:20503121221135912. PMID: 36518554
[3] Thomée S, et al. Computer use and stress, sleep disturbances, and symptoms of depression among young adults – a prospective cohort study. BMC Public Health. 2012;12:735. PMID: 23088719
[4] 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインと解説
https://www.mhlw.go.jp/content/000539603.pdf
[5] Tersa-Miralles C, et al. Effectiveness of workplace exercise interventions in the treatment of musculoskeletal disorders in office workers: a systematic review. BMJ Open. 2022;12(1):e054288. PMID: 35105632
[6] Karatrantou K, et al. A Comprehensive Workplace Exercise Intervention to Reduce Musculoskeletal Pain and Improve Functional Capacity in Office Workers: A Randomized Controlled Study. Healthcare (Basel). 2024;12(9):915. PMID: 38727472
[7] Albulescu P, et al. “Give me a break!” A systematic review and meta-analysis on the efficacy of micro-breaks for increasing well-being and performance. PLoS One. 2022;17(9):e0272884. PMID: 36044424



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