プレゼンティーイズムの測定方法比較|WHO-HPQ・SPQ・WLQ-J・W-Fun・QQ-methodの選び方
日本のプレゼンティーイズムによる経済損失は年間約7.3兆円にのぼると報告されています[1]。見えにくいコストだからこそ、適切な指標で「見える化」することが健康経営の第一歩です。一方で、「健康経営度調査でプレゼンティーイズムの測定結果を報告しなければならないが、どの指標を使えばいいのか分からない」。こうした悩みを持つ人事・健康経営担当者は少なくありません。
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この記事では、健康経営度調査で代表的な5つの測定指標(WHO-HPQ・SPQ・WLQ-J・W-Fun・QQ-method)を、設問数・費用・測定範囲・導入しやすさの観点で比較します。自社に合った指標の選び方がわかります。
目次
- 1なぜプレゼンティーイズムの指標選びが重要なのか
- 2プレゼンティーイズム測定指標5つの特徴と違い
- WHO-HPQ:国際比較に強い世界標準の尺度
- SPQ(東大1項目版):国内で最も普及している簡便尺度
- WLQ-J:業務制限を多角的に測る研究レベル尺度
- W-Fun:7項目で労働機能障害を客観的に測る国産尺度
- QQ-method:疾患特異的・原因が見える唯一の尺度
- 35指標の比較表|設問数・費用・疾患特異性・損失算出を一覧で確認
- 4自社に合った指標の選び方|目的・規模別フローチャート
- 5よくある質問(FAQ)
- Q: 健康経営度調査ではどの指標が推奨されていますか?
- Q: 複数の指標を併用してもいいのですか?
- Q: 測定結果を従業員にフィードバックするべきですか?
- 6まとめ:測定の第一歩は「目的に合った指標を選ぶ」こと
- 7引用
なぜプレゼンティーイズムの指標選びが重要なのか
プレゼンティーイズムの測定指標は、それぞれ測定の切り口が異なります。そのため、同じ従業員集団に対して別の指標を使えば、異なる数値が出ることがあります。
例えば、WHO-HPQやSPQのような「疾患非特異的尺度」は、健康状態全般による生産性低下を広く捕えます。一方、QQ-methodのような「疾患特異的尺度」は、特定の症状(頭痛・腰痛・不眠など)が仕事に与える影響を具体的に可視化できます。
指標選びを誤ると、以下のような問題が起こります。
- 設問が難解で回答率が下がり、有効なデータが集まらない
- ライセンス費が想定以上にかかり、継続的な測定が難しくなる
- 「全般的な生産性低下」は把握できても、原因が特定できず施策につながらない
- 健康経営度調査の報告で求められる形式と合わない
自社の目的・規模・予算に合った指標を選ぶことが、PDCAを回せる健康経営の土台になります。
プレゼンティーイズム測定指標5つの特徴と違い
WHO-HPQ:国際比較に強い世界標準の尺度
WHO-HPQ(WHO Health and Work Performance Questionnaire)は、ハーバードメディカルスクールのKessler教授らが開発した、世界で最も広く使われているプレゼンティーイズム測定指標です。全体11項目の調査票のうち、プレゼンティーイズムに関する設問は3項目です[2]。
- 設問数: 3項目(プレゼンティーイズム関連)/全体11項目
- 尺度タイプ: 疾患非特異的(健康状態全般を測定)
- 費用: 無料(基本無料だが、RIOMHへの入会が推奨されており、年会費は5千円〜10万円)
- 特徴: 国際比較が可能。経済産業省の資料でも多く取り上げられる
- ⚠️ 注意点: 設問の表現が難解という声があり、回答者による解釈のバラつきが生じる場合がある

国際的なエビデンスが豊富なため、グローバル企業や研究目的での活用に適しています。経済産業省ヘルスケア産業課の資料でも多く登場している指標です。
SPQ(東大1項目版):国内で最も普及している簡便尺度
東大1項目版(Single-Item Presenteeism Question; SPQ)とは、平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業「東京大学ワーキング」で開発された、1項目の設問によりプレゼンティーイズムを簡便に測定できる尺度です(疾患非特異的尺度)。東大1項目版はライセンスフリーで利用可能であり、著作権者は、第三者の自由な再利用を承諾しており、研究目的および商用目的に無料で利用できる調査票です。[4]
- 設問数: 1項目
- 尺度タイプ: 疾患非特異的
- 費用: 無料(研究目的・商用目的ともにライセンスフリー)
- 特徴: 性・年齢階級・雇用形態による影響を受けにくい。生活習慣リスクとの相関が確認されている
- ⚠️ 注意点: 1項目ゆえに原因の特定はできない。「どの健康課題に投資すべきか」の判断には別調査との組み合わせが必要
健康経営に取り組む法人の約3社に1社がSPQを採用しており、国内では最も普及している指標です[3]。ストレスチェックや健診と同時に実施しやすいため、「まずは手軽に測定を始めたい」という企業に適しています。
WLQ-J:業務制限を多角的に測る研究レベル尺度
WLQ-J(Work Limitations Questionnaire 日本語版)は、米国Tufts Medical Centerが開発したWLQの日本語版です。25項目で「時間管理」「身体的要求」「精神的・対人的要求」「アウトプット要求」の4つの領域から業務制限を評価します[5]。
- 設問数: 25項目
- 尺度タイプ: 疾患非特異的
- 費用: 有料(Tufts Medical Centerとのライセンス契約が必要)
- 特徴: 4領域のサブスケールごとに分析可能。経済損失の算出アルゴリズムあり
- ⚠️ 注意点: 25項目と設問数が多く、回答者の負担が大きい。ライセンス費がかかる
信頼性・妥当性の検証が充実しており、「どの業務領域で制限が大きいか」まで把握できます[5]。経済的な生産性損失を数値化したい場合に有効で、大企業や研究機関での採用が中心です。
WLQは日本語版が井田らによって作成され、WLQ-Jとして、SOMPOヘルスサポート株式会社が窓口となり、販売をしています(参考論文)
W-Fun:7項目で労働機能障害を客観的に測る国産尺度
W-Fun(Work Functioning Impairment Scale)は、産業医科大学が開発した労働機能障害の測定尺度です(PMID: 26345178)。7項目の簡潔な設啎(例:「丁寧に仕事ができなかった」)に1~5の5段階で回答し、合計点(7~35点)で評価します。21点以上で「中等度以上の労働機能障害」と判定されます[6]。
- 設問数: 7項目
- 尺度タイプ: 疾患非特異的
- 費用: 研究目的は無料、従業員への使用は初年度無料(次年度以降は要相談)、商用はライセンス契約が必要
- 特徴: 性別・年齢・業種に影響されない客観的な尺度。心理測定理論とRaschモデルに基づく
- ⚠️ 注意点: 自社社員への2年目以降の利用は代理店へ要相談。原因の特定はできない
経済産業省「健康経営ガイドブック」や健康経営度調査でも推奨されている指標です[3]。SPQと同様に簡便でありながら、カットオフ値があるため「要支援者のスクリーニング」にも使えます。
WLQ-Jと同様、SOMPOヘルスサポート株式会社が窓口となっており、研究目的の場合は無償、自社社員への利用の場合は初年度無償(次年度以降は要相談)、商業目的の場合は要ライセンス契約です。
QQ-method:疾患特異的・原因が見える唯一の尺度
QQ-method(Quantity-Quality method)は、山梨大学らの研究グループが開発した、唯一の疾患特異的尺度です。4項目の設問で、「仕事に最も影響をもたらしている健康問題」を特定したうえで、仕事の「量」と「質」それぞれの低下度を10段階で評価します[7]。
- 設問数: 4項目
- 尺度タイプ: 疾患特異的(原因となる健康問題を特定)
- 費用: 無料
- 特徴: 仕事の「量」と「質」を分けて評価できる。金銭的損失額の算出も可能
- ⚠️ 注意点: 「症状がある」と回答した人のみが対象となるため、全従業員の比較には工夫が必要

横浜市立大学と産業医科大学の共同研究では、QQ-methodを用いて全国27,507名の労働者を調査し、プレゼンティーイズムによる損失が年間約7.3兆円という結果が得られています[1]。「腰痛が仕事の質に影響している」「不眠が仕事の量を落としている」など、原因と影響の組み合わせが見えるため、具体的な施策立案につなげやすいのが強みです。
5指標の比較表|設問数・費用・疾患特異性・損失算出を一覧で確認
各指標の特徴を横並びで比較します。
| 指標 | 設問数 | 尺度タイプ | 費用 | 損失額算出 | 回答負担 |
|---|---|---|---|---|---|
| WHO-HPQ | 3項目 | 非特異的 | 無料 | ○ | 中 |
| SPQ | 1項目 | 非特異的 | 無料 | △ | 低 |
| WLQ-J | 25項目 | 非特異的 | 有料 | ◎ | 高 |
| W-Fun | 7項目 | 非特異的 | 条件付き無料 | △ | 低 |
| QQ-method | 4項目 | 特異的 | 無料 | ◎ | 低 |
◎=精度の高い算出が可能、○=基本的な算出が可能、△=単独では難しい(他データとの組み合わせで対応)
「とりあえず測定を始めたい」場合はSPQかW-Funが導入しやすく、「原因まで特定して施策につなげたい」場合はQQ-methodが適しています。健康経営度調査の報告用と施策立案用で、複数の指標を併用する企業も増えています。
なお、プレゼンティーイズムは「心の不調」だけが原因ではありません。頭痛・肩こり・腰痛・不眠などの身体愚訴が生産性低下の大きな要因になっているケースは多く、実際にQQ-methodの調査でも「筋骨格系の痛み」や「睡眠の問題」が上位に挨がることが報告されています。心と体の両面から従業員の健康状態を把握することが、効果的なプレゼンティーイズム対策の出発点となります。
自社に合った指標の選び方|目的・規模別フローチャート
指標選びは、「何のために測るのか」と「どこまでリソースをかけられるか」で決まります。以下のフローで確認してみてください。


いずれの指標を選んだ場合も、プレゼンティーイズムの測定結果だけで施策を決めるのではなく、ストレスチェック結果や健診データと組み合わせて分析することで、より効果的な健康投資の判断ができます。特に、従業員自身が「気分の落ち込み」を自覚しにくい場合でも、身体の変化(頭痛、肩こり、腰痛など)には気づきやすい傾向があります。プレゼンティーイズムの測定と合わせて、社外のオンライン相談窓口など、心理的ハードルの低い相談先を確保しておくことも、早期発見・早期対応につながります。
よくある質問(FAQ)
Q: 健康経営度調査ではどの指標が推奨されていますか?
健康経営度調査(経済産業省)では特定の指標が義務付けられているわけではありません。ただし、「健康経営ガイドブック」ではWHO-HPQ・SPQ・WLQ-J・W-Funなどが代表的な指標として紹介されています[3]。実際の採用率ではSPQ(約3社に1社)が最多です。
Q: 複数の指標を併用してもいいのですか?
はい、併用はむしろ推奨されます。例えば、健康経営度調査の報告にはSPQを使い、施策立案用にはQQ-methodを併用するというパターンは、実際に多くの企業で採用されています。ただし、回答者の負担を考慮し、総設問数が多くなりすぎないように注意しましょう。
Q: 測定結果を従業員にフィードバックするべきですか?
組織全体の傾向(平均値や部署別比較)はフィードバックする価値があります。従業員が「自分たちの健康状態が経営課題として捉えられている」と実感することで、セルフケア意識の向上や相談行動の促進につながります。ただし、個人が特定されないよう匹名性には十分配慮しましょう。
まとめ:測定の第一歩は「目的に合った指標を選ぶ」こと
プレゼンティーイズムの測定指標は「唱一の正解」があるわけではありません。大切なのは、自社の目的・規模・予算に合った指標を選び、継続的に測定してPDCAを回すことです。
プレゼンティーイズムは「見えないコスト」であるがゆえに放置されやすく、年間約7.3兆円という損失規模[1]が示すように、経営へのインパクトは大きいです。まずは自社に合った指標で測定を始め、健康経営の第一歩を踏み出しましょう。
引用
[1] Hara K, et al. "Economic burden of presenteeism and absenteeism due to mental health conditions in Japan" Journal of Occupational and Environmental Medicine, 2025. https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2025/20250611hara.html
[2] Kessler RC, et al. "The World Health Organization Health and Work Performance Questionnaire (HPQ)" Journal of Occupational and Environmental Medicine, 2003. https://www.hcp.med.harvard.edu/hpq/
[3] 経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック」https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook.html
[4] 東京大学 SPQ(Single-Item Presenteeism Question)公式サイト https://spq.ifi.u-tokyo.ac.jp/
[5] Takegami M, et al. "Development of the Work Limitations Questionnaire Japanese version (WLQ-J)" 産業衛生学雑誌, 2012. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22869201/
[6] 産業医科大学 プレゼンティーイズム測定調査票WFun https://www.uoeh-u.ac.jp/kouza/kaneki/wfun/entry1.html
[7] 山梨大学 QQ-methodによるプレゼンティーイズム測定研究 https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-17K03926/17K03926seika.pdf



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